テーマ

 テーマが何かについて熱く語ることがある。心理学用語でそればずばり個性化過程というしかない。自分がより自分らしく生きるのにはどうしたらいいのか、それを考え行動に移すことを個性化過程という。我が心の師であるC.Gユングによると、人は創作を通じて自分の課題と向き合い、この個性化を達成していくらしい。次の課題がみつかれば、その課題をクリアし、その課題がクリアできれば次の課題へ。

 そうやって人は生き続けていくのだという。

 そして、自分らしく生きるとは、自分勝手に生きることではない。自分の中にある劣等機能(上手くコントロールできない心的機能)を開発したり、自分の認めたくない影(自分自身の劣等感)を認めることだという。

 心全体の相和がとれた状態。これが個性化過程だ。

 物語を完成させるときにも同じことが言える。なんだかイマイチな出来だと思う作品は往々にして他人にも受けが悪いし、書き直したくなる。逆によく書けたと思える作品はそもその完成させたときの満足感が桁違いである。

 作品の完成度を測るのに一番重要なのはこの充実感だ。その充実感が高ければ、高いほど、あなたは自分の抱えていた課題を創作を通じてどの程度クリアできたのか分かることが出来る。

 じゃあ人がその作品をどう評価するかというと、これは書き手の技量も入ってくるから難しい話だ。それにその人の好みも入ってきて、これがなかなか難しい状態になる。

 ただし、人に何と言われようとも書き上げたときに満足感を得た作品は大切にすべきだ。その作品を書き上げたことにより、あなたは何か大切なものを得ているはずなのだから。

 言い換えれば、人の有り様によって物語は駄作にもなるし、傑作にもなる。テーマがうまく書けていない作品とは、その人が作品を通じて自分の課題を上手く消化できていないということなのだろう。

 この個性化過程を分かりやすく言い直すと「自分が書きたいもの」これこそがテーマの正体じゃないかと私は思う。この書きたいものには、キャラとか世界観とか、文体とか、作者がその作品で表現したいと思うことすべてが含まれる。 

 こうありたいと思う自分が、創作に投影されてこう書きたいに変換されているのかもしれない。

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