カサイさん
駅の近くにあるカフェ、窓際のカウンター席。
ヒロキは先輩とカサイさんとそこに並んで座っていた。
商店街のお祭りの後、オーケストラ有志の打ち上げに少しだけ混ぜて貰ったのだが3人で途中で抜け出してここに来た。
静かな場所でゆっくり話がしたかった、というのもあるが、カサイさんには何か意図があるようだ。
「葬式の時にナオの友達とか同僚、家族とも話をして、自分なりに色々調べたんだ」
初めて会うカサイさんはとても端正な顔をしていたが、身長の割に痩せぎすな印象を受けた。やはりナオさんの事で相当辛い思いをしたのだろう。
「あいつが定期的に通ってた整形外科の看護師がどうも胡散臭い、という事まではわかった。取り巻きがいて、多分宗教の真似事みたいな事をしてる。整形外科の職員とか患者だけじゃない、界隈の他の病院や薬局にまで勧誘の手を広げようとしてる」
手元のコーヒーには手をつけず、外を見つめたままカサイさんは話し続ける。
アキラの部屋にあったチラシだ。先輩も「最近大学で注意喚起されてるやつかな」と呟く。
「その看護師はカワカミという若い女なんだよ。毎週日曜日午後6時半頃、すぐそこのスーパーで買い物をする」
僕と先輩はその言葉を受けて顔を上げる。
「少し背の高い黒髪をひとつに縛った地味な女だよ」
そんな女、どこにでもいる。それでも何故かわかってしまった。
痩せていて、決してブスではない。しかし世界の不幸を背負ったような、幸の薄そうな女。横にボディーガードのように虚弱そうなメガネの男とやはり不幸そうな顔の女を連れてスーパーに入っていった。
何故かその3人共、幽霊に取りつかれているかのように「薄暗く」見えたのだ。
そして異質に見えたのは3人揃って同じ服を着ていたから。すぐそこの量販店で売っている服だが、全く同じ服を。
「………後を尾けたい。巻き込みたくないけれど、1人で3人相手にするのは勇気がいる。嫌じゃなければ着いて来てくれないか」
カサイさんのその言葉を受けて先ず先輩が「カサイさんには前にお世話になったから」と承諾する。ヒロキもこれでアキラの事が少しでもわかるなら可能性は捨てたくない、と頷いた。
少し距離を置いて後を追う。
歩きながらふと気付く。
この道はアキラのアパートに続く道だ。
不意にポケットの中でヒロキのスマホが震える。
背中がすくむ。
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