同時多発××
タチバナエレキ
自転車
あなたは言った。
「私は亡霊なのです」
制服のスカートから伸びるちだらけの足をきにする事もなく、あなたはそこに立っていた。
午後9時46分、コンビニエンスストアの駐車場で。
体半分に蛍光灯の軽薄な光を受けて、残り半分闇の中に立つあなた。
そして私の自転車後部座席に乗せて欲しいとはにかむ。やはりちだらけの顔で。
私の服が汚れてしまうから嫌です。
この自転車も大切なので汚せません。
そもそも交通違反はしたくありません。
でも私は優しいから警察なら呼んであげます。
そう答えると、あなたは笑った。
「大丈夫、私、本当に亡霊だから」
まさか、と思ってあなたに近付き、体に触れてみようとすると私の手は空を切った。
よくできた、色の濃いホログラムだなと思った。何故か恐怖は全く感じない。
「あなたの家に連れていけと言ってるわけではないんです、ただ途中まで連れて行って欲しい。私がいくらホログラムみたいな亡霊でも、歩くと足が痛むから」
私の心の中を読んだのか、この少女の亡霊は。
「………わかりました」
これはもう、乗りかかった船なのかもしれない。
後ろに亡霊を乗せ、私は走り出す。
重みは無い。でも微かな息遣いを感じる。
言われた通りの道を進む。
「ここ」
言われた通りの場所で止まる。
ふわりと自転車を降りたあなたはニコリと笑って「ありがとう」と言った。
「明日、ひとつ良い事が起きる呪いを掛けておきます、送ってくれてありがとう」
そしてあなたはとあるアパートの前まで歩き、煙のように消えた。
私は100メートル先の自分のアパートまでそのまま帰宅した。
翌日。なんとなく買ったスクラッチくじを削ると1000円当たった。
成る程、亡霊を指定の場所に送ったバイト代ということか。
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