俺の勇者を取り返せ!―婚約者が勇者のパーティーに連れていかれてから最強覚醒しても遅すぎる―
がめ~
第1話 プロローグ的な――
――ハルトには将来を誓い合った女の子がいる。
名を、ベルベット。
ミルクティー色の長い髪に、犬耳のように跳ねたくせっ毛があるのが特徴的な少女だ。
栗色の瞳持ち、白桃色の薄い唇、ハルトにはもったいないほど美人の許嫁である。
性格も明るく、いつも前向きで、何があってもめげない努力家だ。
内向的で、自分に自信のないハルトとはまるで正反対の性格をしている。
そんな彼女と手を繋いで外を出歩くのも、ハルトの子供のころからの習慣だ。
ハルトにはそれが気恥ずかしい時期もあったが、時が経ったいまでは、それが誇らしいような、嬉しいような、そんなくすぐったい気持ちに変わっている。
この日もハルトは、よくベルベットと二人で遊びに行く村はずれの丘へ、一緒に手を繋いで向かった。
二人きりでいるときは、いつも満開の笑顔を見せるベルベット。
そんな彼女とひとしきり遊び回ったあと、囁き合うのだ。
「ハルト、結婚しようね」
「うん。結婚しよう」
ベルベットとは、子供頃からことあるごとに、結婚しようと囁き合った。
彼女とはいつも一緒に過ごしていたため、すでにそれが当たり前だったのだ。
……そしてそんな当たり前が、ずっと続くのだと思っていた。
職業選定の儀が行われる、あの日までは。
■
――グランガーデン。
その名称は巨大な一つの大陸を指す名でもある。
だが、ここでは彼らハルトたちの住む世界と言った方が、最もわかりやすいだろう。
グランガーデンは魔法や魔術といったおおよそ幻想的な超常の力が当たり前のように存在する幻想の大地だ。
そのせいか文明基盤は中世ヨーロッパかそれ以前、紀元前のものまでが幅広く混ざり合って醸成しており、ひどく偏った社会組織が乱立している。
そんな大地の上では、人間種族やドワーフ、エルフなどの多種多様な種族が暮らしている。
国家として見れば、東西に王国と帝国の二つの強国が覇を唱え、南には蛮族、世界の各地に魔族の領土が点在。
そしてそのどれもが、大陸を己が版図で一つにせんと、せめぎ合い、幾度も争いを繰り返して来た。
小規模な小競り合いは、いわば茶飯事であったが、それも十数年ほど前に、王国と帝国で和平が結ばれてからは鳴りをひそめ、仮初(かりそめ)ではあるが人々は平穏を得たと言える。
ただ、それでも脅威がまったくなくなったわけではない。
その昔、邪神が残したと言われる邪悪な魔力の残滓から生まれた『魔物(モンスター)』が大陸各地を跋扈しているし、領主同士の小競り合いから生まれる盗賊兵団や不良傭兵たちなども、未だ人々の頭を悩ませている問題だ。
その中でももっとも顕著なのは、数年ほど前から頭角を現し、魔族や魔物たちの王として台頭した五体の魔王の存在だろう。
魔王とは、千年の周期ごとに生まれると言われる、強大な力を持つ魔族のことだ。
それらが魔族や魔物を統率し、魔族以外のすべての種族を支配下に置くために、あらゆる土地、あらゆる者に大規模な攻撃を仕掛けているのである。
一に曰く、亜人の王である【獣魔王オルクスグリフ】
二に曰く、吸血鬼の王である【血魔王アヴァロクロス】
三に曰く、邪竜の王である【竜魔王ラードーン】
四に曰く、アンデットの王である【死魔王デザイアヌス】
五に曰く、異形の王である【禍魔王ガガババ】
それらの力はそのどれもが強大無比であり、人の造った都市など、いとも簡単に消し去ってしまうほどだ。
であれば人間を含むあらゆる種は、奪われる側でしかない。
だが、人間その他の種族には、精霊という味方が付いていた。
精霊とは、この世の理を統べ、世界に均衡を保つべくある上位の存在だ。
自らは直接干渉できないが、その庇護下にある者に力を与え、人々がこの厳しい世界を生き抜くために力を尽くしてくれる。
そんな精霊たちが授けてくれる力それが、【職業】と、それにまつわる【スキル】だ。
スキルとは、この世界に生きるすべての者が得る可能性を持つとされる、特殊な能力のことを指す。
あるいは【魔術スキル】あるいは【武術スキル】【技術スキル】などというように、多種多様な種類に富み、人々のできることの幅を大きく広げてくれる、この世界の人々にはなくてはならないものだ。
そしてその【スキル】を取得しやすくするのが、精霊が人々に授ける【職業】である。
これを授かると、その人間の進むべき方向性――つまりは適性を与え、その【職業】に関連した【スキル】を取りやすくなるということはもちろん、その【職業】でしか取得できない特殊なスキルを得ることができるのだ。
その祝福は、一つの例外もなくすべての者に与えられる。
それが、この世界に生きるものの持つ権利であり、この世界で生きるための最低限度の力だからだ。
十五歳――グランガーデンでは成人と見做される年齢になると、精霊から適性のある職業を授かるしきたりがある。
もちろん、そこで授かった職業がすべてではなく、絶対に当人がその職に就かなければならないわけではない。
他の職業にも適性があれば、また別日に選定の儀を受け、他に適性のある職を得ることもできるのだ。
だが、それは生活に余裕がある者に限られる話。
小さな村の人間のように、すぐに働き手にならなければいけない者などは、成人始めの儀で授かる適性が一生の指標になるのは至極当たり前のことだと言えるだろう。
――この年、ハルトと、そして彼の婚約者であるベルベットにも、精霊から職業を授かる【職業選定の儀】を受ける日が訪れた。
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