第371話  火事






桟橋から出た炎はおりからの風で回りの林に燃え移り広がっていった。








「お、親方ーッ!あ、あれ火事じゃないか?!」



夜中にトイレに起きてきた職人は燃え上がる炎を見て叫んだ。




「さ、桟橋が燃えてる!?」



親方のビュッカー・ユングマンは全員を叩き起こし「おい!火事だ!近所に知らせろ!」と怒鳴って職人を近隣の人々に知らせに走らせた。





石切場の桟橋近くまで炎が迫ったが石切場の職人達は何とか桟橋を守ろうとバケツで桟橋に水をかけ続け、風向きも変わり風上になったことで辛うじて延焼をまぬがれた。




近隣の人々は避難すると同時に男たちは森や林の木々を切り倒し空間を開けることで火の手を防いだ。









火災の明かりはエストブルグの街からもよく見えた。




一晩中燃え続け、翌日の夕刻頃には自然に収まった。







スベン河の岸に沿って燃え広がり周辺の森にも延焼していき数kmに渡って帯状に焼けた。





火事の跡は赤茶けた荒野となり焦げた匂いが周辺の村や町までだだよっていた。




幸い避難が早く犠牲者は出なかったが数戸の民家が焼失し十数人の農民が家を失った。




ライオネル卿の屋敷のすぐ近くまで炎が迫り、執事のジェームスもライオネル卿もいつでも逃げ出せるよう準備をしたが何とか収まり屋敷は無事であった。














まだ煙の立ち上る内から原因の調査が始まった。





調査の陣頭指揮は役人のオスカースティッグマイヤーがあたった。





オスカーはイングマルたちと罪人護送の仕事を一緒にした役人である。




アントウェルペンでの裁判が終わり、帰ってきてまだすぐであった。



オスカーの指揮の元、近隣の騎士や村役人らが総動員して調査に当たった。



石切場の職人達の証言から火元は桟橋である事はすぐにわかったが失火か放火か?






焼けた桟橋付近を調べていた男が「おい!これ見てみろ!」と言って仲間をよんだ。




仲間が見つけた物を見て「こ、これは?!すぐにオスカー殿を呼んでくる!」と言ってオスカーを呼びに走って行った。







空の油樽が燃えずに川岸に引っ掛かっていた。




回収した油樽はまだ新しくしかも丁寧に販売店の刻印が押してあった。






回収した油樽をもって販売店に行き、事情を聞いたところ店員はよく覚えていて



「この樽は前日に3人の農民に売った。」と証言した。







特徴からすぐに誰か判った。


彼らは札付きの悪となっていたのでみんな知っていた。





結局2日もしないうちに犯人が指名手配された。





「ヘッジロウ村のショルツ・ポット、トーマス・ダン、ルイ・クロップの3人は重放火容疑者、見つけ次第当局に知らせよ!」という高札が各村や町の掲示板に貼り出された。














イングマルたちは何事もなく無事エストブルグに到着し以前材木を購入した貯木場に立ち寄った。




桟橋に倉庫を作るためと桟橋を増やすためだった。






船は沖に泊めたままカヌーを下ろしてエーギルじいさんと一緒に貯木場の事務所に向かった。





貯木場の責任者はエーギルじいさんの知り合いのネイサン・バッカスだがネイサンに会うと挨拶もそこそこにすぐ「おい!おぬしらの作った桟橋は北のスベン河にある桟橋じゃったか?」と驚いて聞いてきた。






エーギルじいさんは「ああ、そうじゃが?どうかしたか?」と聞いた。






ネイサンは「先日火事で焼けたそうだぞ?!」と気の毒そうに言った。





エーギルじいさんとイングマルは「何だってッ?!」と驚いてきいた。












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