第370話 動き
結局腕相撲はバイオレット・ローズ号の船員の負けで終わってしまった。
「なんだ?口ほどでもないな、ほんとにこんなんで海賊退治できたのか?」と見ていた人達はつぶやいた。
ウイリアム船長は「だから言ったろ、他と変わらんと。
運が良かっただけだ。」と言った。
「フ~ン、そんなもんかね~。」と皆あまり納得していないようだった。
イングマルから見れば一件乱暴なイベントもコミュニケーションをとるには手っ取り早く、腕相撲の後は皆知り合いみたいになり色々と教えてくれるようになった。
事前予想の通り白亜はすごく安く自分達で袋詰めすればさらに安く調達出来ることがわかった。
少し北のマーゲイトと言う町ならばもっと安いと教えてもらえた。
情報をもとにイングマルたちはすぐにマーゲイトに出発した。
ドーバーから北に30kmほどの所なのですぐに到着した。
町というか桟橋の回りに十数軒の民家があるだけで石灰以外は漁業だけの寂しい所であった。
海岸線の露頭はすべて白亜でそこらを掘ればすぐに石灰が手に入る。
町長に挨拶を済ませ謝礼を払いアントウェルペンで流行りの帽子を手土産に渡すと大喜びで好きなだけ石灰の採掘許可が出た。
寂れた町で外貨をもたらしてくれる者は町にとっては有り難いお客であった。
しかし手が足りないので採掘と袋詰めは自分達の手で行わなければならない。
船員たちは採掘する者、袋につめる者、袋をとじる者、船に運ぶ者、船内にキチンとつめていく者に分かれて順序よく流れ作業で石灰を運んでいった。
石灰は素手で触ると肌が荒れるので皆手拭いをほっかむりしてバンダナをマスクがわりに口に覆い手には革手袋をはめた。
幸い採掘したての白亜は湿気っているので煙が舞うことがなかった。
その分重くなるので乾燥している物と比べると総量が減ってしまう。
が別に構わない。
この先しばらくこの作業が続くのだし気長に構えてないと飽きてきてしまう。
長く同じ作業を繰り返しているといちいち計りで量らなくてもきわめて正確にみんな同じ量を袋に入れることが出来るようになっている。
麻袋に細かく砕かれた白亜をシャベルで入れて大きな縫い針を使い麻紐で袋をとじていく。
とじる者もベテランでミシンのような速さと正確さで袋を麻紐で縫い付け閉じていった。
イングマルは船まで運ぶ係となり船の甲板に上がると船倉から戸板を船底まで渡し滑り台のようにして袋を滑り落とした。
船倉には二人の船員が滑り落ちてきた袋をきれいに並べて積んでいった。
時々休憩しながら1日中石灰袋を運んだ。
数日がかりで船一杯石灰袋を積み込み、すぐスベン河の桟橋に向けて出港した。
帰りは海流と風が順風なので荷を満載しているにも関わらず来るときより楽に航海は進んだ。
スベン河に作られた桟橋は出来たとこでまだ無人であった。
石切場の方は職人達がいるが初めに作った方は無人である。
まだ道も整備されておらず林の中の登山道みたいな粗末な道があるだけで、知らない人には場所も解らないような所であった。
当然夜は真っ暗である。
そこに油樽を抱えた男3人がやって来て桟橋の手前でジッと辺りをうかがっていた。
「いいか?やるぞ!」
「おお、いいぜ!」
「おい、ほんとにやるのか?ヤバイんじゃないか?!」
「今さら何言ってる?!」
「ええい、かせッ!」そういって一人の男が樽を持って桟橋の端まで走って行って樽の栓を抜き油を撒きながらこちらに戻って来た。
空になった樽を投げ捨てるとランプの火を油を染み込ませた布切れにつけ、棒に巻き付けて松明にすると桟橋の中程に放り投げた。
初め中々燃えなかったが松明の炎の熱で油の温度が上がると急に「ボンッ!」という音と共に炎が燃え上がりみるみる桟橋は炎に包まれた。
「や、やったぜ!楽勝だ!」
「よっしゃ!ずらかるぜ!」
男たちは燃え上がる桟橋を確認すると闇夜に紛れてその場を去って行った。
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