第360話  桟橋見学2




イングマルは船員たちのなかでは一番年若くチャキチャキと動いてテーブルに取って置きのワイン樽を持ってきてエミリア夫人とエドモンドに出した。




白ワインで「とても旨い!」と二人とも喜んでいた。





イングマルはさらに自分の船から大きなフライパンを持ってきてガレットやクレープを焼き上げ二人に出した。




スモークしたアジやサバの干物をあぶってお酢と岩塩を少し振りかけガレットにはさんで食べるととても美味しく、少し辛口の白ワインとよく合った。






イングマルは酒は飲めないし飲んでもちっとも美味しいとは思わないのだが人が旨いというのを味見して記憶しているので各地の酒で旨いというのを理解している。




自分は旨いと思わないが「こういうのが一般の人には旨いのだろう」と知識で知っているので利き酒で買い集めた酒をお客さんに出している。



いつもお客には好評だった。






船員たちや石切場の職人も集まって来て大にぎわいとなった。






「やあエドモンド修道士どの、久しいのう?そちらが噂のエミリア夫人かのう?初めてお目にかかる。」と石切場の責任者ビュッカーは言い挨拶した。




石切場の職人ビュッカーとエドモンドは顔見知りでエミリア夫人のことも知っていた。




「はじめましてビュッカーさん、ごきげんよう。」とエミリア夫人は言った。





ビュッカーは「以前御主人と一緒に仕事をしたことがありましてな・・・御主人の事は気の毒なことをしました、お悔やみ申し上げます。」と言った。




エミリア夫人は「いえ、お気遣いありがとうございます。もう何年もたってますから平気ですわ。」と言った。




この話を聞いていた回りの船員たちはエミリア夫人が未亡人というのを知って色めきたった。










エミリア夫人は一番年若く下っぱだと思っているイングマルがよく動いて皆の食事を賄っているのを眺めていたがどうも船員たちの様子がよそよそしくイングマルの顔色をうかがっているように見えてきて不思議だった。




全身イレズミだらけのガラの悪そうな船員たちが腰を低くしてペコペコとエミリア夫人に挨拶していたりしてなんともこっけいと言うか異様な風景であった。





イングマルはよく動き回りながら船員たちがエミリア夫人に乱暴な態度や振る舞いをしないか監視し、紳士的に接するにように睨みを利かせている。



ガレットやクレープを焼く長いナイフのようなヘラをジャグリングのようにして器用にくるくると何本も放り投げながら船員たちを見てガレットを焼いている。




船員たちの態度が悪いといつでも投げてくる気でいるのは一目瞭然であった。





エミリア夫人はそんな状況を知ってか知らずか「皆さんほんとに親切で頼もしいですわねー。」と喜んで声をかけていた。




船員たちは「へへへ、どうも恐れ入りやす。」とひきつった笑顔で返事していたが美人に誉められて嬉しいのは本当であった。







エドモンドは「こんなに立派な桟橋が出来たならこれからはほんとに楽になる、ありがたい事です。」と言った。



エミリア夫人も「ほんとに、助かりますわ。」と言った。






オットー船長は「この桟橋は石切場専用でしてね。一般用は向こうに見える淵のところにある桟橋がメインになります。


これからはどんどん大きくして広げて行こうと思っています。」と言った。






エミリア夫人もエドモンドももう1つの桟橋を眺めながら「まあ、ほんとに!これからはここも賑やかになっていくのでしょうね。」とつぶやいた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る