第343話  新しい仕事





ジェームスの執務室で待っている間に本棚の本を幾つか手にとって見ていたが難しい政治学や統治哲学みたいな本ばかりでチンプンカンプンだった。





しばらくしてジェームスが呼びにきて今度はライオネル卿の執務室に通された。




ライオネル卿は薄暗い部屋にたたずんでいて独り言のようにボソボソと話し出した。




「バーデンス領は古来から戦乱が絶えず代々居城の周囲の川には防御の為、橋も桟橋も設けてはならないという決まりがあったのだ。」と言った。





イングマルは「それでスベン川にはほとんど何もないのですか?」と聞いた。





ライオネル卿は「そうだ。川が天然の掘りというわけだ。





だが今回の騒動でいくら防御を高めてみても財政が整っていなかったら全く無意味なことを想い知らされた。



先祖の言い付けをただ守ってきたがもう時代に合わないのだろうな・・・。





ジムの事にしても放蕩の限りをしてきたのに叔母上に泣きつかれて何とか事を荒立てないようにと対処してきたことが逆に仇となってしまって今では手がつけられなくなってしまった。






ジムの先見性や革新性は私にはないものだ。





ジムが本当に悔い改め領民ために生きてくれるならば彼に当主の座を譲っても良いと考えた事もあったのだが・・・・。」と言いしばらくたたずんでいた。






イングマルもジェームスも何も言わず黙っていた。






ライオネル卿はキッと顔を上げて「いかに金回りが良くなっても領民が奴隷となるような事をこれ以上放置しておくわけにはいかない。


もはやこのまま座して成すがままにされるわけにはいかぬ。





遅ればせながらも貿易で国を富まさなければならないようだ。




おぬしの申し出をすべて受ける。


騎士たちへの褒美の品々、ただただ感謝する。




桟橋も貿易もそなたの好きにしたらいい。」と言った。






イングマルは「それじゃほんとに?」と聞いた。





ライオネル卿は「ああ。細かい事はジェームスと相談したらいい。


貿易で民が富栄えるよう力を貸してくれ。」と言った。





イングマルは「微力を尽くします。」といいおじぎをして部屋を出ていった。









イングマル自身はバーデンス領のゴタゴタに関わる気は無かったのだが少なからず縁のある人々が没落してゆくのを黙って見ているのも嫌だったし、今度の事は商売に有利と判断した。





だが桟橋の建設や整備、荷物を保管するための倉庫も追々作らなければならないだろう。




儲けが出るまでにはしばらく時間がかかると思われる。





イングマルはジェームスに「善は急げだ!すぐに行きます。」というと騎士たちにあいさつもせずに屋敷を出ようとした。




ジェームスは「ちょ、ちょっと待て!行くってどこにいくんだ?」と聞いた。






イングマルは「もちろん桟橋の材料の買い出しですよ!


それと今度来たとき、この辺りの耕作面積と農産物の収量表を見せてください。」と言った。





ジェームスは「財務表などおぬしが見てわかるのか?」と聞いたがイングマルは「だいたいでいいんですよ、だいたいで。」と言うと走って自分の馬車に乗って行ってしまった。





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