第329話  エストブルグの海狩り4





イングマルたちは船団全体に人手不足で特に中型船は負傷した海賊たちで一杯で忙しく、あまり速度が出せなかった。



海賊船はもう1隻無傷のジーベックがいたはずなので警戒しながら航海を続けた。







クロードは今は中型船にいたが騎士たちもいるのでおとなしくしていた。



はじめは憔悴していたが落ち着いてくると今後どのように振る舞うか考えていた。



このまま何事もなく済むはずがない。


だが何とか今までのように船員たちのリーダー的な立ち位置にいるためにはどうすればいいか?



海を眺めるとイングマルの船が見えた。




並走している小僧がどう出てくるか?


それによっても対処が変わってくる。


何とか口八丁で皆の支持を取り付けて多数決に持ち込めれば。



幸いあの小僧は人質ごと怪我させているので恨みに思う者もいるだろう。



ひょっとすると思った以上に簡単に行くかも?



そんな事を考えていた。











もう1隻の海賊船はイングマルの船を見たとたん早々に逃げてしまった。






中型海賊船と連携すれば或いは何とかなったかも知れないのにこの海賊船「黒い槍」の船長ヴォルフガング・シュタイナーは初めから勝ち目はないと判断した。







海賊の手下たちは皆口々に「何で戦わないのか?」と言ったが船長は「この前の戦いで奴は俺たちを見逃した。


甘いなと思った者もいるようだが奴はいつでも俺たちを相手に出来る自信と余裕があったのだ。





下手に攻撃してまたあの火樽の攻撃を食らったら今度こそ防ぐ手だてがない。



今度は助けてくれる仲間もいない、間違いなく海の藻くずだ。



焼かれて海の藻くずになるか?捕まって吊るされるか?お前たちはどっちがいい?」と手下たちに聞いた。










海賊たちは以前イングマルが行った油樽を放り投げて空中で矢で射抜くという技を自分達でもやってみようと実験してみた。



だが結局誰も出来なかった。






油樽を放り投げるだけなら出来るが目標の上空に高く上げるのは思った以上に難しく、屈強な男が何人も挑戦して何10回にやっとひとつうまくいく程度。



さらにそれに矢を当て樽を空中で破壊させることはついに誰も出来なかった。




結局有効な対抗手段がなく「あれには近づかない」ということしかなかった。











船長はさらに続けて「それにシーウルフやシーリッパーの尻拭いばかりさせられていい加減うっとうしくなってた所だ。



あいつらにはもう退場してもらおう。」



「俺は卑怯もんと何んと言われても生き延びる方を選ぶぜ。」と船長は言い、段々遠くになっていく船団を見つめていた。




船長に言われて海賊たちは納得して皆で船団を見つめていた。





「ですが船長、黒い矢に続きシーウルフにシーリッパー、3つも海賊が捕まったら今後あっしらの活動がやりにくくなるんじゃないですか?


戦力的に厳しくなるんじゃないんですかね?」と手下の一人が聞いた。






船長は「ああ、当分は小物狙いだな。だがそれもすぐだ。今新しい団が出来て調整中だそうだ。


何でもすごい腕のいい連中で船長も幹部も元海軍出身だそうだ。」といった。






手下たちは「ああ、それ俺も聞きました。


元手もたんまり持っていて装備も充実していて良いもの揃いだそうですよ。」と言った。




船長は「元海軍と海の悪魔か?おもしろい取り合わせかもしれんな。


俺たちとしては共倒れになってくれるのが一番なんだがな。」と言うと不敵な笑みを浮かべ、今後起こる新しい展開を想像していた。




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