第320話  射的競べ






騎士ハインツはイングマルをつかんで離そうとせず、射的競べをせがんでくる。




イングマルは「これはめんどくさい事を」と思ったがとりあえず「イヤー、あの~その~別に見せもんじゃないですし~。」と言ったが騎士のハインツは「正直言って君のクロスボウの技は今まで見たことがない!騎士たるものが君のような少年に敵わないとなったら騎士のメンツに関わる!」などと言い出した。





ますますめんどくさいと思ったがどうあってもあきらめそうにないので適当にやって誉めときゃいいかなと思い付き合うことにした。




新しく作った矢のためし射ちのつもりで普段使いのクロスボウを持ってきた。





イングマルは「お先にどうぞ。」というと騎士ハインツは黙ってロングボウをつがえて矢を放つ。




桟橋の端の的までは50m程、タルの底面60cm程の円にほとんど命中した。



速射性も高く一定のリズムで矢は飛んでいく。




15本もの矢を1分ほどで射ち尽くした。








イングマルは「見事な腕前ですねー。」と素直に感想を言った。




騎士ハインツ自分でも満足したような顔でいた。






矢を回収すると今度はイングマルがクロスボウを装填した。




クロスボウのフレーム先のフックを足で押さえ両手で弦を引き上げストッパーに引っかける。




矢を装填して狙いをつけた瞬間にはもう射っていて次の装填をしている。




一連の動作が非常に早く機械的で速射性は騎士ハインツのロングボウとほとんど変わらなかった。




しかも命中精度は桁違いのようでほぼ同じ位置に命中していて数発でタルの底を撃ち抜いてしまった。






騎士ハインツはイングマルに「ちょっと見せてくれ。」と言って来たので「どうぞ」と言って手渡した。







フレームはクルミ材で作られよく使い込まれて手擦れた所は手の形に少しへこんであめ色のにぶい光沢を放っている。



一般的なクロスボウと比べてイングマルのクロスボウの弓木はロングボウ並に長くその為引き絞りのストロークも長い。




引き絞りの力は強力でロングボウより強い。




騎士ハインツはイングマルがいとも容易く装填しているのでロングボウより弱いバネと思っていたが片手ではまったく引くことができなかった。




矢の長さはロングボウの半分もなく、フレームに彫られた溝にはめ込むように装填する。




溝には革とフェルトのパッチがついていて装填した矢をしっかりと保持していて矢の尻にも弦がはまる溝が切ってあり少々振り回して逆さまや下にむけても矢が落ちることがない。




発射すると矢の弾道は直線的で速度もロングボウより速かった。





騎士ハインツは何本かイングマルのクロスボウを射って見たが銃のように照星や照門はついていないので一発目は外したがどのような弾道を描くか理解すると後は外すことはなかった。



命中率や威力は確かにロングボウより強かったがロングボウのような速射性はなく、武器として性能面ではそれほど違いがあるようには思えなかった。








イングマルは早く終わらせようと太鼓持ちみたいに「いや~上手ですね~、見事です~、これでもう恐いもんなしです~。」などと言って騎士ハインツの機嫌を損ねないようにしていた。








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