第319話  帰り支度






ほどなく裁判が始まった。




証拠等の資料は事前に完璧に準備され滞りなく審理は進みその辺りは役人のオスカーのやること、抜かりはなかった。




イングマルは裁判にはまったく興味ないのでずっと船の修理をしていた。




だがずっと頭のなかでエーギルの言った「海賊みたいだ」と言う言葉がこびりついており、今後どのように行動すべきか考えていた。







「降りかかる火の粉は払う」という立ち位置は変えずに行動は慎重にするとしても備えをおろそかにはできない。






イングマルは町に何度も買い出しに行き鋼材を買ってくると船に据え付けてある鍛冶場でクロスボウの矢先を作っていた。



今回の戦闘で使用した矢は70本余り、予備も含めて100本新たに作りすべてイングマルの手作りである。



海賊船の舵にクサビを打ち込んだ矢先も新たに数十本新調した。










作業していると騎士がたずねてきて「どうかね?調子は?裁判も一段落したのでエストブルグに帰る段取りにきたのだが。」といった。




イングマルは「ごくろうさまです。こっちはいつでも出港出来ますよ。」と言った。






エーギルも交えて近くの店に入り打ち合わせることにした。







騎士のハインツは「裁判は結審して来週には判決が出る。まあ死罪で決まりのようだ。


我らももう用事は済んだのですぐにでも帰るのだが実は5人が船酔いに懲りて帰りは陸路で帰ると言うのだ。」と言った。





イングマルは「陸路だと何日もかかりますけど?」といったが騎士は「帰り道だし別に急ぐ必要もないそうだ。」と言った。





「そうですか?まあ僕らは別に構いませんけど。」とイングマルは言った。




その他に周辺海域、特にエストブルグ周辺では海賊が頻繁に出没しているので注意せよとのことであった。





この事は近所の店でも他の船員たちが話しているのを聞いた。





そう言えばジョンたちシーワゴンはまさにこの海域を行っているのだが大丈夫だろうか?









騎士ハインツは「そう言えば差し向かいで話すのは初めてだったな。


私はハインツ・リーバーだ。」と言った。





罪人護送中は皆殺気だって恐い顔だったが仕事が終わって気が抜けると普通の明るいお兄さんといった感じだった。




イングマルは改めて「アウグスト・ブルックです。」と偽名を言った。





「おぬしには聞きたいことがたくさんあるのだ。」と騎士ハインツはイングマルに聞いてきた。





イングマルはちょっと恐々として「な、なんでしょうか?」と言った。





「船のこと、馬のこと、そして何よりクロスボウのことだ!」と言って自分の荷物からロングボウと矢を取り出した。





それから店を出て桟橋の端に空のタルを横にして置くと「さあ、射的競べだ!私のロングボウと君のクロスボウ!もう一度見せてくれ!」と言ってイングマルにクロスボウの射撃をせがんできた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る