第302話  護送の仕事





イングマルは役人のオスカーの話を聞きながら「ふ~ん、そんなもんですかね~?」と興味なさげにつぶやいた。




役人の話を聞きながらイングマルは「この人は理想主義というのか?ロマンチストなんだなぁ。」と思っていた。









イングマルは人は誰でも飢えれば獣になることを知っている。



そうなればどんな法も主義も、無意味なのを十分知っている。



そうならないようにするのが政治であり役人や領主の務めである。


そのために権力が与えられている。









それをたくさん被害者が出るまで放置しておいて法の理念もあったもんじゃない。


理想ばかり自分の主義ばかりを唱え、他を危険にさらすこの役人をイングマルは嫌いであった。








イングマルはクロードにしても海賊にしてもそうだが、自分のことを「嫌いだ!」とはっきり言う者や自分を攻撃してくる海賊たちの事もそれ程嫌いではなかった。




絶対許されない極悪人もいるのだがその分彼らはシンプルでわかりやすい。



イングマル自身もシンプルに生きたいと思っているし敵対する相手には遠慮も手加減もいらないのでそんな相手を好ましく思っている。




最終的には討ち果たしてしまうので普通の人から見ればいびつな感情かもしれなかった。









ジェームスは話を続け「初めエストブルグで裁判しようということになったのだがこの町の主要な要人はほとんどジムの息のかかったものたちなので公正な裁判とはならないだろう。


そこでジムの影響の及んでいないアントウェルペンで裁判することにしたのだ。


アントウェルペンにも一味の犯罪の被害者がいる。


手続き上も問題ないだろう。



だが名案だと思ったのもつかの間、すぐに甘いことを悟った。





一味をアントウェルペンに護送する途中で奪還するという情報がもたらされたのだ。





陸路はもちろん海路でもである。




息子の親であるジムは金に糸目を付けずあらゆる人々に息子らの奪還を依頼していることがわかったのだ。」と説明した。







イングマルは「むずかしい政治のことはわからないけれど、要するにアントウェルペンの裁判所まで一味を届ければいいんだね?」と聞いた。





ジェームスは「そういう事だ。陸では賞金稼ぎ、海では海賊団。とにかくありとあらゆる悪漢がやってくるだろう。



陸路は騎士団が何とかするが問題は海路だ。




ワシらには海のことを任せられる信頼のおける者がおらんのだ。」と言った。






イングマルは「わかった引き受けるよ。でも準備に少し時間がかかるな。物も人も集めなきゃだし。」と言った。






ジェームスは「ああ、構わん。必要なもんがあったら言ってくれ。」と言った。


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