第289話  鹵獲2







燃え上がる二隻の海賊船はマストは折れ船体は傾き、今にも崩れ落ちそうであった。



2隻の乗組員全員を救助した最後のジーベックの海賊船は燃える船の周りを回りながら生き残りがいないか辺りをさがしていた。




そこにイングマルの船がやってきて、イングマルは再び油樽の攻撃をするため油樽にロープを結んで投げる用意をした。








近づいて行くと海賊船は救助した2隻の海賊たちで甲板はいっぱいで皆両手を挙げて手を振っている。





手ぬぐいを振りながら「やめろー!やめろー!」と叫んでいた。




懇願するように両手を合わせている者もいる。







ここで攻撃すれば100人近い海賊を全滅できるのだがイングマルは少しためらい樽を脇に抱えながら海賊船の周りをぐるぐる回って攻撃するかどうしようか考えていた。






その間彼らはずっと手を振り続け矢を射かけてくるものもなく、中には剣や弓を海に投げ捨てる姿も見られた。





イングマルはずっと彼らを観察していたがしばらくすると「手を振る姿と声が少し静かになったか?」と思い、もう一個油樽を取り出して両脇に樽を抱えて海賊船を眺めると再び海賊船からは「やめろー!やめてくれーッ!!!」と声が大きくなった。







イングマルはそれをしばらく眺めた後そのまま何もせずに離れていった。









イングマル自身彼らに直接うらみがあるわけではない。



それに船一隻鹵獲し手に入れたことでイングマルはそっちに気がとられて早くアントウェルペンに行って船をじっくり観察したかった。



そのため我ながら甘いと思いつつも今回は見逃すことにしたのだった。








その後イングマルたちは鹵獲した海賊船をガードしながら無事アントウェルペンに到着し、以前使った桟橋に停泊した。





ジョンとロイドは管理棟に直行し「海賊船と海賊を捕まえた!すぐに衛兵をよこしてくれ!」と叫んだ。





管理棟の職員ははじめ何言ってんのか理解できなかったが入港した真っ黒な海賊船と海賊旗、そして裸で縛られている男たちが数珠つなぎで降ろされているのを見て仰天し町に慌てて知らせに行った。




イングマルは裸の海賊たち27人を下すと桟橋に座らせた。



3人の重傷者と気を失ったままの船長は担架で運び出された。







しばらくすると町から10数台の馬車と多数の衛兵や役人やってきて海賊たちを馬車に乗せていった。




事情聴取のためジョンとロイドが一緒について行った。





桟橋にはさわぎを聞きつけた野次馬が多数詰めかけ大騒ぎになっていた。




イングマルは海賊旗を下すと船の舷側にくぎで止めた。




その旗は「黒い矢」という有名な海賊団の旗であった。




それがわかると増々騒ぎが大きくなった。







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