第284話  海上の戦闘2






甲板上にいるロイドからは海中の暗礁はほとんど見えないがマストのてっぺんにいるイングマルからは良く見えた。



猿みたいにマストのてっぺんにちょこんと腰かけて手信号のように右手左手を伸ばしてロイドに合図を送り暗礁の間を縫うように進んだ。




暗礁の位置の具合でさらに岸に近づかなければならない事もあったがそのおかげで最後尾の武装商船からの攻撃は届かなくてすんだ。




本当にギリギリのところ1、2mもずれれば暗礁にぶつかりそうな所を抜けて行く。



後ろのジョン達もイングマルの船の航跡を正確にたどって進んで行く。




この点では皆船のベテランであり安心して任せることが出来た。






6隻の中型武装商船の後ろを何とか通り抜けたイングマル達は今度は左岸方向の沖に向かい総帆にして全速でその場を離脱した。










左岸方向にいた6隻の中型武装商船はまさかのイングマル達の行動に完全に出遅れ、慌てて後を追おうとするが元々速度が遅く小回りの利かない船なので全く追いつく事は出来なかった。



右岸方向にいたジーベックの海賊船4隻は獲物が逃げたことが分かると急いで左方向に向かおうとしたが一番離れたところにいて、しかも6隻の中型武装商船が前に出てきて邪魔になり彼らを避けるために大きく沖に回頭しなければならずその分大分距離も時間もロスしてしまいイングマルたちに差をつけられる事になった。






だがジーベックの海賊船は中型武装商船よりも速度が速くて小回りも利く。




最高速度はイングマルの船よりもわずかに速い。




いずれ追い付かれてしまうのは時間の問題だった。







アントウェルペンまでの航路上で必死の鬼ごっこが始まった。







海流と風をうまくつかんでイングマルとジョン達は高速で逃げている。





6隻の中型武装商船はもう見えなくなってしまって完全に引き離したので問題にならなくなったが4隻のジーベックの海賊船は少しづつだが確実に距離をつめてきている。





だが同じようなサイズのジーベックだが乗り手や操舵手の練度によって少しづつ差が出てきて2隻がほぼ同じ位置、数百mおくれて3隻目、さらに数百m離れて4隻目という形になっていた。




前の2隻は完全に連携がとれていてかなりのベテランのようである。





イングマルは完全武装になってすべてのクロスボウを装填した。


両舷に20丁づつ全部で40丁の滑車を用いて装填する強力なクロスボウである。


縁のクロスボウを掛けておく棚に整然と並んで配置されている。




船の縁には柳の枝で編んだ取り外し出来るトランク状のかごがいくつも並べられて盾となっている。


かごの中にはねんどが詰めてあり表面には漆喰が塗り込んであった。


火矢が来てもこれで受け止めれるようにしてある。




2隻のジーベックははっきりと乗り手の顔が見える位まで近づいて来ている。




イングマルはジョン達を先に行かせ、小回りの利く自分が追いついてきたジーベックの前を塞ぐようにして蛇行したりしている。




だが衝突すればイングマルの船の方が脆弱なのでたちまち破損してしまうのは分かっているので接触はしない。



それにあまり近づくと矢を放ってくる。




だが地上戦闘とは違い高速で移動し、しかも強い風が吹いている海上ではロングボウはほとんど命中しなかった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る