第274話  エストブルグパニック






海賊島では大分明るくなってからやっと船が一隻無くなっていることに気がついた。



海賊島にいる者全員が事件を知り、まさか海賊が盗難に遭うとは思ってもいなかったので皆一様に驚いていた。









船一隻無くなった事は別にたいした損害では無いのだがメンツで生きている彼らとしては許せない事であった。






現場を調べてみて、もっといい船で取りやすい所にあった船には手をつけておらずワザワザ取り出しにくい所にあった船を狙って盗って行った所を見ると犯人は元の持ち主かその依頼を請け負った者であることは間違いない。





海賊島の中でも特に憤っていたのは海賊相手に商売をしている総合商会の者だった。




売れ残りの船はまとめて商会が海賊から購入していたので奪取された船は今は商会の物ということになっていた。




彼らは今までこんな事は無かったので見張りもたてておらずまんまと船をパクられた事が腹立たしくてしょうがない。




この総合商会は盗品と承知で商売しているので事実上海賊とかわりない。



必要な物があれば海賊に依頼して盗って来てもらうということもしており商会の持ち船は海賊船であった。


通常の商売もしているが時には海賊にもなる。





メンツをつぶされ恥をかかされた総合商会のボスは自身の持ち船と配下の海賊船の船長を呼び集め「何としても盗られた船と犯人を見つけ出し、見せしめに船を沈め犯人を殺せ!」と命じた。




船一隻の損害よりはるかに高い費用がかかるがメンツのほうが大事な彼らは金にいとめはつけなかった。




商会の持ち船6隻、依頼を請け負った海賊船4隻の合計10隻が報復のため出動した。




さらに各地の港に配置させている海賊のスパイが犯人探しに活動した。




彼らのスパイ網は優秀でイングマル達が帰港して3日目には目をつけられるようになった。










翌週、エストブルグ港内に10隻の海賊船が海賊旗を高々と上げて船団を組んで現れた。




港に詰めかけた人々は初めて間近に見る海賊船に興奮する者や残酷で有名な海賊の旗印を見て恐怖する者達で大騒ぎとなりパニックとなった。




だが海賊船は上陸するわけでも攻撃する訳でもなく自分達の威容を見せつけるかのように港内を行ったり来たりしていた。






いきなり前触れもなく現れた海賊船に軍艦も出動する暇も用意もしておらずなすすべがなかった。



武装商船は怖くて動けず、船員は船を捨てて陸に逃げてしまった。





もし海賊船が火矢を用いて港の施設や停泊中の船を攻撃すれば大変なことになっていただろうが彼らはただ港内をゆっくり移動しているだけであった。




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