第252話  処刑命令




バーデンスブルグの海軍軍令部本部長は机の上の書類を順番に見てたが今朝届いた書類を見て驚いた。


腰抜かす程驚いた。




「カール・ド・ルシュキ号の生存者が現れ、艦は積み荷を移しかえたあと放火された、と証言している。」との報告内容だった。



部長は大慌てで副官を呼びつけ、この報告書の詳細を知らせるように命じた。







次に入った報告をみて部長は残り少ない髪をかきむしり机を叩いて悪態をついた。



報告書には「証言者は気が触れているので訳の分からない戯れ言と判断してすでに解き放った。」と書いてあった。


実際は逃げられたのだがそんなことは言えないので報告書には解放した事にした。





現場の担当者のお粗末さに部長は発狂しそうだった。







カール・ド・ルシュキ号が軍資金を運んでいた事は軍の中でも一部の者しか知らない。



もちろん末端の役人など知る由もないので重要と思わないのは仕方がない事であった。



だが知っている者にとっては深刻な事態であった。



失われた軍資金は軍の予算の1割以上であり、この輸送計画を立案したものは責任を取らされ処断された。



事故で終わればそれで良かったがもしも報告書の内容が事実で事故ではなく事件となればそう簡単には終われない。



軍内部の犯行となれば人事担当者や上官の責任問題ともなり、つまり自分にも類が及ぶ可能性があるのだった。



さらに「積み荷を移しかえた」というのが事実ならこれはなんとしても取り戻さなければならない。




部長は事実を知っている関係者を集めて今後の対策を検討することにした。




しかし証言者が行方不明で本当に乗組員だったのか確認出来ず、まずはなんとしても証言者の確保が最優先の課題となった。




部長は副官を呼んで語気を荒げて「さきの報告書にあった証言者をなんとしても探し出して確保せよ!これは最優先事項だ!」と怒鳴りながら命令した。




副官は縮みあがって緊張しながら「はいッ!了解しました!」と敬礼すると走って自分のデスクに向かい命令書を作成した。



副官は本部長の殺気だった表情から「対象の人物は軍に仇なす凶悪な犯罪者か、海賊の一味だろう」と勝手に判断して命令書に「対象者を探し出して捕らえよ!刃向かったり逃亡を図る場合はその場にて斬り捨ててもよい!」という内容を勝手に書き加えてしまった。




伝言ゲームのように命令をうけた者は勝手に自分の判断を加えていき最終的には「アウグスト・ブルックなるものを見つけ次第殺害せよ!」となってしまった。




イングマルは海軍からお尋ね者として追われるはめになってしまった。






そんな事になっているとは思いもよらないイングマルはさっさと出発していた。


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