第238話  船上の戦闘




みんな戦闘配置のまま固唾を飲んで船を眺めていたがみるみるこっちに近づいて来る。




通常の商船ではあり得ない行動にみんな敵船と認識した。


一度の航海で二度も海賊船に遭遇できたのは大変な幸運でみんなすでに勝った気でいて「万歳!」と叫んでいるものもいた。




海兵隊全員興奮して士気はすこぶる高かった。


若い士官見習い達も興奮が収まらず後方の艦長の側を離れて船首の方に走って行った。


敵が乗り込んでくるのはたいてい船首からだ。






兵曹長が「総員隠れろ!」と叫び船の縁やマストの影やシートの影に隠れた。



敵船は同じくらいの大きさだがスピードはかなり早い。




はっきりみえるところまで近づいてきて追い越すと進路を塞ぐようにして船首と船首をぶつけるようにしてきた。




フックつきのロープを投げ入れられて接舷すると足場板を掛けて海賊たちが乗り込んできた。




船首に入ってきた海賊たちを取り囲もうと海兵隊が出たが海賊たちは怯むことなく落ち着いている。



彼らは密集隊形のまま警戒しながらゆっくりと近づいて来る。




白兵戦になると目にも留まらぬ速さで次々と海兵隊を斬り倒していく。




しかも不利になると少し引いてそれにつられて出た所をマストの上から弓兵に射られてしまう。



弓兵はかなりの使い手で歩兵の援護に徹して歩兵が不利な時だけ射ってくる。



海兵隊のクロスボウ隊が弓兵を仕留めようとしたがあっさりやられてしまいどうにもならなかった。



兵の数はこちらが多いのに狭い甲板の上では側面に回り込む事ができず最前列の同じ数の兵が戦っている。


だが彼らには弓兵の援護があり海兵隊は一方的にやられている。



イングマルたちはいわゆる後方支援で負傷した者を引きずって後方に運び船医の元に連れていくのである。



最前列はすでに血と負傷者でいっぱいで足元が滑ってしまうので砂をまいていく。


それもイングマルの仕事であった。



砂を撒き負傷者を後送するのを繰り返していたがすでに船首は占領され中央付近まで押されている。




こちらから敵船に乗り込み別の突入口を作ろうにも船は完全にTの字なって塞がれていてそれも不可能であった。



数が多くても不利な状況にたちまち兵の士気は落ちて防戦一方になっている。



みんな敗北を意識し始め艦長も焦りを隠せなくなっていた。




行く手を遮られているので撤退も脱出も不可能であった。


逃げ出せてもこの船のほうが遅いのですぐに追い付かれてしまう。




イングマルは自分の仕事を冷静に淡々とこなしていたが若い士官見習いたちが

海賊たちに一方的にやられているのが見えた。



矢を受け泣き叫んで漏らして震えて剣を振り回していた。



海賊たちはすでに彼らを包囲してニタニタと笑いながらすぐには殺さず時間を掛けてなぶり殺しにしようとしていた。



イングマルは彼らが恐怖の内に死んでいく様を別にどうということもなく眺めているつもりだった。






だが彼らが止めを刺される瞬間、イングマルは体が勝手に動いていた。




四つん這いで海賊たちの間を駆け抜けると落ちていた剣で海賊たちの腕を斬っていった。



彼らが怯んでいる内に3人の若い士官見習いたちを引きずって後方に連れてくると一人づつ後部デッキに放り投げた。



そのあと落ちていたクロスボウと矢を集め後部デッキの一番後ろのマストをのぼって行った。



マストの中程にある見張所ではなくてっぺんまで登って行った。




マストの先から甲板までは15m近くあったが上からみるとはるか彼方に見えた。



だがすべてが丸見えだった。




イングマルはマストとクロスボウのフレームを器用に足で挟んで巻き上げ器を操作して装填すると敵の弓兵を狙った。



弓兵は海賊船のマストの中程の見張り所にいてこちらにはまだ気づいていなかった。



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