第209話  復興支援




夜が明けて町の様子がわかってきた。




ギャング団のアジトのほか周辺に延焼した家屋は80戸にもおよび、200人近い人が焼け出された。



人家だけでなく港の倉庫群が多く焼失し、町の経済流通活動は停止してしまった。




住民は怒りで領主や町長のもとに詰めかけ抗議した。



住民の皆も領主の振る舞いを知っていたのである。



「領主ではらちが開かない!」と数十人が事態の打開を訴えるため陳情に王都に向かった。




その他周辺の都市国家にも援助を要請した。











イングマルは夜が明けてすぐにスラム街の食堂のおばちゃんの元に行って事情を話し、子供らのために炊き出しをお願いしてみた。




おばちゃんはいつもの通り愛想のない仏頂面だがイングマルを店の奥の物置小屋に呼んで「これとあれを運びな。」と言う。




五右衛門風呂ぐらいありそうな大きな鍋であった。




馬車に積んでそば粉の袋や調味料、店にある食器類全部積み込んでおばちゃんと一緒に造船所に向かった。



早速かまどを作りそば粥を作り始めた。




子供らは全部で75人もいる。


みんな一様に具合悪そうでガリガリで憔悴していた。




おばちゃんのまずいそば粥でも「おいしい、おいしい」と喜んで食べていた。


今までろくな食事しかしてなかったようだ。




イングマルもそば粥を食べてみたがいつもの店で食べたのよりうまかった。




驚いておばちゃんをじっと見るとおばちゃんは知らんぷりしている。



「おばちゃんめ、うまいのを作れる癖にわざとまずいので金取ってるのか?なんでそんなことしてるんだ?普通逆だろうに?」と思った。







おばちゃんの謎めいた行動はともかく親方もベルナールも「これからどうしようか?」と相談している。




「しばらくは何とかするとしても、このままずっとここにみんなを置いておく訳にもいかないし。」という話し声が聞こえてきた。



すると子供らにも聞こえたらしく「どこにも行きたくない!どっかにやらないで!」と言って泣き出して親方達にすがってきた。




親方もベルナールもすっかり困ってしまって近所の人々や町の有力者と相談してくると言って親方は出掛けてしまった。



とりあえず今の飯場のままでは寝床が足りないのでベルナール、イングマル、アンリ、クレインの4人で二段ベッドを作ることにした。



4人とも段取りよく材料を切り出しホゾを開け、見る見るうちにベッドが出来て子供たちも興味津々で終わり頃にはベッドの板を並べたりして手伝うようになっていた。



昼も夜もおばちゃんは炊き出しに来てくれて、みんなで食事した。



夜はイングマルに大きな鉄板を持ってこさせガレットを焼き、クズ野菜と枝肉を炒めたものをガレットに挟んで食べた。



すごくうまかった。


フリーダの料理もうまかったがおばちゃんの安い材料で作る料理も上品さはなかったがとてもうまい。


みんな大喜びで笑顔も見れるようになった。




ますます「なんで店ではまずいものを出すのか?」不思議だった。




そうこうしていると親方が暗い顔をして帰ってきた。


なんかぶつぶつ言っている。




「ダメじゃ!話しにならん!」と親方は言った。





なんでも「ギャング団のメンバーだった者などとんでもない!」とみんな関わり合いたくなくて無関係を決め込んだ。




当面の資金援助もしてくれないと言う。




このままではすぐに食費も無くなり破産する。




イングマルは親方に「みんなに造船所で働いてもらおうよ。」と提案した。



「働くって、お前なー、あんな小さな子らになにができるんだ?」と親方は言う。





イングマルは「もちろんちゃんと教えて仕込まないといけないけど、コーキング材料作りやコーキング作業なら小さくても出来るよ。」



「製材はちょっと無理だけど刃物の研ぎやノコギリの目立てチョンナのはつりぐらいなら出来るんじゃないかな?」と言った。






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