第200話 初めての船出
親方が出掛けたままで製材用丸太がないので型に合わせてフレーム作りをしていたが、材料が足りないので作業が中断しがちだった。
そこへ親方が傷だらけで帰ってきた。
皆「どうしんたんです?」と聞いたが、親方は「大変なことになった!」と息をきらしていった。
町の出入口にギャング達が勝手に関所を作り、出入する人から税金と称して金品を巻き上げていると言う。
造船所に運び込む予定の丸太も止められて「税金を払わねば町には入れない。」と言って追い返されたと言う。
親方は抗議したがギャング達に袋叩きに逢ってしまった。
幸いたいしたケガではないが材料が入手できないとなると作業は停まったままになる。
イングマルは親方から材木商の場所を聞いて「ちょっと見てくる。」と言って一人馬にのって出掛けた。
親方は「気をつけろ!関所には近づくな!」といい、イングマルは手を振って了解した。
街道の出入口は避けて裏道を行った。
ひとつだけでなく三つのギャングすべてが自分達の縄張りを中心にしてあちこちに関所を作っている。
造船所からもっとも近いギャングをイングマルは狼と呼んでる。
親方がやられたのもこの狼団である。
材木商は造船所から数kmのところにある。
山から切り出した丸太を川を使って河口付近まで運びそこからは陸路であった。
河口から海に出てそのまま海路を進めないかと考えた。
しかし河口から半島が突きだしていて海路を行くとなると大きく迂回しなければならない。
しかも半島の周辺は岩礁が多くこれを避けるのにさらに沖に出て迂回しなければならない。
海のことを知らないイングマルにはとてもじゃないができそうもなかった。
一旦造船所に戻り親方や先輩達にも海路のことを聞いた。
アンリとクレインの師匠のベルナールは若い頃、丸太を川に流して運んだことがあるが海を運んだことはなかった。
イングマルは親方に頼んで小さな手こぎボートを一艘貸してもらい、試しに造船所と材木商の間の海路を行けるかどうかテストしてみることにした。
イングマルの申し出に皆驚いて「やめとけ」と言ったが「テストするだけだから、無理と思ったらすぐに引き返すから」と言って親方に頼み込んだ。
親方はベルナールとも相談して「このままでは造船所は立ち行かなくなる、もし海路が使えるならこれほど幸いなことはない。」
そう言って許可した。
ベルナールはクレインにも行くように言った。
「うぇッ!?」
とばっちりを食ったクレインは焦りだしてイングマルに目配せして「断れ!」と目で訴えた。
イングマルは「テストで万が一あって大事な職人が失われてはもともこもない、今回は僕だけでいいです。」といった。
クレインはひきつった笑顔でコクコクうなずいた。
ベルナールは我が弟子ながら情けないと半分あきらめて「遠回りでも潮の流れに逆らうな。」と注意した。
水、食料、浮き輪、ロープ、ナイフ、予備のオールや舵などを積み込んで早速出発した。
手こぎの小さなボートだがマストが一本あり小さいが帆もある。
イングマル初の航海だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます