第178話  果てしない戦い






彼らは再結集してもう一度土橋を攻めて来ようとしていたが、逆にイングマルは討って出て準備中のものを斬って回った。




他のメンバーもクロスボウでイングマルを援護する。






名簿に載っていたこの村の特徴は「弱い者には強く、強い者にはとことん弱い。」という事だった。




この村のリーダー役でいかにも強面のスキンヘッドの男が見えた。


名簿にあったアーロン・イェルムと思われた。


兵たちを鼓舞して怒鳴り散らしている。





イングマルは「アーロン!」と叫んで呼んでみた。





敵にいきなり名前を呼ばれて彼が驚いて振り向いたところで、袈裟懸けに斬り倒した。





イングマルの凄まじい斬撃で上半身が半分に裂け、その場にいた兵たち全員戦意を喪失し逃げ出した。




あまりの恐怖にもう完全にパニックになってしまい柵を飛び越え堀の下や湿地へ転げ落ちて行った。



堀や湿地に落ちた者は足を取られ動けなくなり、すぐクロスボウの的になっていった。



イングマルは深追いはせずすぐ砦に戻り、砦の外は死体で足の踏み場もなく彼らはクロスボウの射程内に入ってこようとせず、200 m くらい離れたところに盾を並べて取り巻いている。




盾の向こう側で動いている旗印で次に攻めてくる村がグストナムであることが予測できた。



ルーワーズの村の兵は、ほぼ壊滅してしまった。





ルーワーズの村が橋を架け、間髪入れずグストナムの村の兵が大挙して押し寄せる手はずだったのだが完全にご破算になってしまった。










数日後、今度は堀を埋める作戦に出てきた。



材木やら土砂、ゴミ、かさばるものなら何でも掘りに放り込んで行った。



長いアリの列のように、もっこや背負子を担いで地道に堀を埋めてくる。



イングマルは「地味だがなかなか良い手だ」と思った。








イングマルはクロスボウの射手に「掘りに物を捨てる瞬間の盾の隙間を狙って正確に作業する人の手や足、肩を射抜くように」と命じた。



「致命傷にはならなくてもいい、戦闘不能にできればいい。」と言っておいた。



皆の正確なクロスボウが次々と作業している兵たちに命中していく。






堀が1/3ほど埋まったところで作業は止まってしまった。






グストナムの村の兵の大半が手傷を負ってしまったのだ。





グストナムの村は五つの村の中でも最多で、名簿には1500人程。


人身売買の規模も最多だった。





連日、休みなく続いていた埋め戻し作業であったがイングマルたちは時々バリスタの矢にロープのついた鉤爪の矢を使い、発射してから盾に矢が刺さったところで馬でロープを挽き盾を剥ぎ取った。



盾が崩れたところへクロスボウの集中攻撃が行われ、この攻撃を行えば一回で十数人を仕留めることができた。




連日100人単位で倒されてしまい、森の中は負傷者で埋め尽くされていた。




グストナムの村の兵も、ほとんど全員負傷して壊滅してしまった。





残り二つの村は、辺り一面の怪我人と食糧不足からすっかり戦意を喪失してしまっていた。




最も後方にいたウルシーの村の兵たちはこっそりと数十人単位で逃げ出す者がいたが、森から出てきたところでウッラ率いる騎射隊に討ち取られてしまい、生き残りは森へ逃げ帰った。




森にいるもの全員、すでに自分たちが挟撃されていることが分かってしまいますます戦意を失っていた。





この時点で無傷なのは、ウルシーとターパラの村の者たち1000人程だけとなっていた。





負傷した兵たちは恨めしそうに彼らを見て、このままではすまない雰囲気だった。





いずれにしても彼らは無事では済まない。





食料が底を尽き、「砦の攻撃には不要」と馬も早くに食べてしまっていて撤退もできない状態であった。




森から出て後方に行っても討たれ、前進しても砦を落とせず、ここにじっとしていても食料がなくなる。




文字通り、八方塞がりの状態である。





いまだ1000人以上も兵がいるのに彼らは戦意を失っているので「戦う」という選択肢がなくなっていた。





「どうやって逃げたそうか?」とそればかり考えていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る