第164話 エルザの帰還
エリザベートを慰めながら、皆悪態をついていた。
皆が居ることでエリザベートはすぐ立ち直ったが、ローズの怒りはなかなか収まらなかった。
逆にエリザベートがローズをなだめる始末である。
イングマルは「もう済んだこと」と相変わらず淡々と作業をこなしていた。
気持ちを変えるため途中の川で休み、魚釣りをしたりバーベキューをしたりして遊んだ。
コニーは美味しい料理に大喜びである。
ひとしきり遊んで次のエルザの村へ向かった。
エルザは騎射専門でいつも馬に乗っている。
すっかり乗馬が好きになってしまい、一日のうち馬上に居る時間の方が長い。
好きなだけでなく実際の乗馬技術も一流の腕前で、ほぼ垂直のような崖を登り降りしたり背丈より高い壁を飛び越えたりできる。
馬はイングマルの目利きで選りすぐった馬ですごい価値がある。
優秀な馬は現代の感覚で言えば高級外車以上の価値がある。
エルザにとっては自分のからだの一部か分身ようである。
イングマルがいちいち指示をしなくても偵察に出たりするようになっていて、優秀な戦士であるが本人はそんな自覚は無い。
イングマルもそうだが勇ましいことを言ったり努力とか根性とか、そーゆー精神主義とはこの一行は全然縁がない。
やれることをやり、やれない事は無理をせず離脱する。
逃げ上手というべきか。
エルザの村に到着したが、ここでもエリザベートと同じような状態になった。
再び、人買いに間違われたのだ。
雰囲気の変わってしまったエルザを村のものも両親もなかなか認識できず、エルザと分かってからも「エルザは人買いの仲間になってしまった!」と思い込まれてしまった。
「早く出ていってくれ!もう二度と来るんじゃない!」
何と説明しても誤解が解けなかった。
エルザは泣くことも悲しむこともなく、諦めて馬車に戻っていった。
敵意しかない村では、エルザの居場所はもうなかった。
イングマルは「もっと早く帰ることができればこんなことにはならなかったのだろうか?」と思ったが、どうもそういうことでもないらしい。
エルザはさらわれた時点で、村でのエルザの人生は終わっていたのだ。
現時点ではよそからきた武装集団の一員としか見られていない。
エルザの新しい運命が、古いしがらみに帰ることを拒んでいるかのようだった。
エルザはそんな運命を知っているかのように黙って受け入れ、みんなと一緒に馬に乗って故郷の村を去った。
振り返る事はなかった。
どんな戦いよりも辛いことであろうはずなのだが、馬上のエルザにはそんな様子は見られなかった。
イングマルは彼女の憂さ晴らしのつもりで、久しぶりに騎射合戦に誘った。
布を巻いた訓練用の矢を、馬でかけながらクロスボーで打ち合う。
エルザのいつにも増して正確な矢が、イングマルに命中する。
矢は怒りがこもっているような痛さだった。
表情には出ていないが、やはり動揺しているようだ。
彼女の1射1射に込められた怒りをすべてイングマルは体で受け、あざだらけになってしまった。
馬も2人も疲れてしまうまで打ち合いは続き、やがてすっきりしたエルザは自分にはすでに帰る場所があることを認識して、みんなとイングマルに感謝するのであった。
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