第133話  苦戦







 村の候補地を出たイングマルたちは、自らの装備をチェックした。



先の戦いでロングボウの攻撃は恐ろしかったが、カゴと炭が盾となってくれた。




イングマルはさらに防御を増すために、荷台を中2段にして棚を作りその棚にカゴに炭をいっぱい詰めて並べた。



鹵獲した人買いのロングボウ使って防御力を確かめた。





荷台にできるだけ高くカゴ積み上げれば、放物線を描いて振って来る矢も届かない死角部分ができた。



中央に馬を寄せて馬車を並べれば、馬も守ることができる。




前回の遭遇戦で偶然、商品のカゴと炭を満載していたので助かった。





みんなはこの経験からなおいっそう商品のカゴ作りに励み、今まで以上に丁寧に硬く編みこんで1つでも多く作ろうと競いあうようにしてカゴ作りに励んでいた。



かごと炭なので火矢を恐れてその対策もした。




いちばん外側になるカゴをトランクのような形にして、その中にワラと土と粘土を混ぜたものをつめ表面には漆喰を塗りこんだ。


このトランク状のかごを規格化してたくさん作り、馬車の荷台の側面にも並べた。



硬く跳ね返すのではなく、あえて柔らかくして矢を受け止め粘土で火を消してしまうようにした。







目潰しの改良にも余念がない。


懐紙の中に小石を混ぜて重くすれば飛距離が伸びた。





そんな日々を送りながらジャネットの村に無事到着した後、また次の移動を始めた。



ジャネットの村は1番遠い所にあった。







毎日訓練しているといつの間にか「訓練しているので大丈夫、安心」という感情がみんなの中に生まれてくる。



その安心感がいつの間にか「敵など訓練しているから自分たちにはやってこない」というふうに変わり、自分の願望とごちゃ混ぜになってしまう。




「自分が望んでいないことなど、起こるはずがない。」という、何の根拠もない考えをするようになってしまう。



これまでの戦いで、全て撃退していることも影響しているかもしれない。




戦えば必ず勝つ、負けるはずがない。





こういう思考は、人ならば誰にでもおちいることなのだろう。




イングマルは元々悲観主義的な思考をするので、これで安心というものがなかった。


いつもおっかなびっくりで行動している。





しかし今回一番端にきたので「さすがにこんなところでは敵はいないだろう。」と思い込んでいた。




ジャネットの村を出てからしばらく小雨が降り続き、霧雨のようなじとじとした天気が続いていた。



地面はぬかるみ移動しにくかった。



嫌な天気にみんなうんざりして陰気になっていた。








周りが森に囲まれ街道の周囲だけ少し開けたところに出て、その窪地で先頭の馬車がぬかってしまった。





2台の馬車の車輪が泥にはまり込んで、動けなくなった。




外へ出て様子を見ようとしたときイングマルは殺気を感じとり、みんなに荷台に入るように叫んだ。



すぐ動かせる馬車は円陣を組んだ。







ほどなく音もなく4方から矢が降ってきた。



荷台のカゴに突き刺さる矢は、絶えることなく降ってきた。





ぬかるみにいたイングマルは、後方の馬車が円陣をうまく作ったのを見ると馬を守るため、2台の馬車を引いていた馬を放した。




矢は4方から飛んでくるので、完全に包囲されているようだ。





一斉に降ってくる矢は、ざっと見積もっても50本以上ある。





馬車やその周りは早々と矢が無数に刺さっていて、針ねずみのようになっていた。




少し治まったと思って外に出れば、たちまち矢が飛んでくる。




周りの森までは200m以上ある。




霧雨で敵の姿はよく見えない。




みんなは完全武装になり、敵の姿を目を凝らして探す。




時々木々の間にうごめく人影が見えた。








みんなに声をかけ無事を確認したイングマルは、みんなを励まして長期戦になる覚悟した。






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