第101話 キャロルの帰還2
ローズが反応しなくなってしまったので仕方なくイングマルは、他のターゲットを探して一座を見渡したが、全員一斉に目を伏せた。
1人、キャロルがお腹を抱えてピクピクしている。
イングマルはそれを目ざとく見つけると、急いでキャロルの前に駆けてゆく。
「セーシー、ボーン?」
「ひっ!!」キャロルは体をこわばらせた。
「シモブクレー、プレ!」
「ボン、もなみー!」
「ローズワー、イキオクレダ、ワー、ハラデテキタ、ワー、ワカメ!!」と言いながら、おかしな身振り手振りを入れてくる。
しまいには、おかしな小躍りを始めた。
「ボーン、ボン、ボン、ボン、オヤージ!!」
キャロルは我慢できなくなって、お腹を抱えて、ゲラゲラ笑いころげだした。
みんな驚いて「キャロルが話した!?」と声をあげた。
さんざん笑い転げまわるキャロルの前で、イングマルは小躍りしていたが、やがてキャロルが過呼吸になり、呼吸困難になって苦しみだした。
それを見てローズが、イングマルを殴り倒して突き飛ばすと、キャロルを横に寝かせ、静かに深呼吸させて落ち着かせた。
しばらくして落ち着いてから「キャロル、大丈夫?」と聞いた。
キャロルは「うん、ごめん、大丈夫。」とつぶやいた。
ローズは「あなた、話せるようになったの?」と聞いた。
キャロルは「そうみたい。話せるわ。」と自分でも何故かわからない表情で答えた。
「良かった。」と皆、キャロルに抱きついた。
イングマルはポカンと見ていたが、「笑い死」なんてことが本当にありえるのかと思って怖くなってしまったので、フランス商人の物真似は封印することにした。
ローズは、イングマルをにらみつけて「今度やったら・・・・」という。
イングマルは両手を挙げて、思わず「ウィ。」と言いそうになったが、慌てて飲み込んで、黙ってコクコクと頷くだけにした。
話せるようになったキャロルは、日に日に明るくなり、年相応の無邪気な女の子になっていった。
イングマルとは歳が近いこともあって、バカな話をよくするようになったが、ローズはイングマルがまたバカなことをしないか、気が気でない。
イングマルも、常にローズの怖い顔が目に入るので、思いっきりバカな真似はできない。
しかし次の目的地は、キャロルの故郷である。
ローズは、キャロルを早く家に帰してあげたいと思う気持ちと、別れたくない、という気持ちとで葛藤し苦しんでいた。
いつかはこういう日が来る、と分かっていたけれど、現実に目の前に迫ってくると苦しかった。
ローズにとっては、実の妹以上の存在になっていた。
イングマルはそんな彼女を見て、「無理しなくても、キャロルと一緒に行ってもいいんだよ。」と言った。
ローズは「ううん、私は最後までみんなを見届けると決めたんだから。」と首を横に振った。
いよいよ最後の晩餐で、ローズはキャロルの髪をとかしてあげながら、「幸せになってね。幸せになってね。」と同じことばかりつぶやいていた。
キャロルは泣きながら「うん、うん、。」といつまでもうなずいていた。
翌日、村に入ると、村人数人にすれ違うが、皆イングマルを怪しんで声をかけても無視して立ち去ってしまう。
遠巻きに見ているのだが、声をかけて来るものはいなかった。
キャロルの家に到着し、中に入ると両親が驚いて「キャロル!!」と叫んだ。
キャロルは泣いて両親に抱きついた。
みんなそれを見て、よかった、よかった、と胸を撫で下ろした。
しかし、村では、よそ者に排他的になっていた。
キャロルを助けて届けたにもかかわらず、早く出ていってほしいようだった。
しかし、その日は村に泊まることにして、一応宴会が催された。
村の若者たちは、男はイングマルだけだとわかると、生意気な小僧だと、からんできた。
「盗賊や人買いなど、俺達だけでもやっつけれる、ガキのくせに、剣なんかぶら下げて、馬車に乗りやがって、!」と悪態をついた。
ある種のひがみ根性と言うか、村から出ることもできない自分の不甲斐なさを、逆恨みしているようである。
イングマルはそういうことを理解しているのか、全く無反応で、鳥か虫がないている程度としか感じていなかった。
そういう態度が、ますます村の若者を苛立たせているようだった。
ローズもそんなイングマルの態度に、「なんで何も言い返さないのか?」と苛々していた。
しかし、キャロルの手前、暴れ回るわけにもいかない。
仕方ないので、もう疲れた、と言って、宴会場を後にした。
ローズはイングマルに「明日は早く出発しよう。」といった。
イングマルは黙って装備と物資を整えた。
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