第102話  キャロルの帰還3




翌朝早く、キャロルと別れの挨拶をした。




他の村人は誰もおらず、キャロルはイングマルに武器を返そうとしたけれど、イングマルは「お守りに持っていて。」と言った。




「手入れを怠らないようにすれば、きっとキャロルを守ってくれるよ。」


とイングマルはキャロルの手を握った。









みんな、キャロルが見えなくなるまで、いつまでも手を振っていた。




のろのろと馬車は移動しながら、ローズはもちろんみんな黙って寂しさを感じていた。



お祭りの後のような、そんな感じである。




キャロルにとっては、昨日までの日がお祭りであり、今日からまた村での日常が始まる。



日常の仕事をこなし、村の若者と結婚をして、子供を産んで、歳をとって・・・・・。



それが本来のキャロルの人生である。



キャロルだけでは無い、全員がそうである。



お祭りはいずれ終わるのである。



そのことを忘れてはいけない。











しばらくたってから休憩した。


気持ちを一新して、イングマルは新しい目的地を地図で調べていた。





そこへ、後から馬でかけてくるものがいた。



イングマルたちの前で転げ落ちると、体中傷だらけで何かを訴えようと手を伸ばしている。



「どうした!!」と抱き起こすと、キャロルの家の近所の少年だった。



少年は「ひ、人買いが・・・・盗賊が・・・・村に・・・。」とつぶやいた。








イングマルは武装して馬に乗ると、騎射の上手なフリーダ、アデラ、スーザン、ローザ、ウッラの5人を指名し、武装させてクロスボウと矢をたくさん持たせた。



ローズには少年をゆだね、「馬車で後から来て!」といい、イングマルたち騎馬は先にキャロルの元へ駆け出した。












キャロルの村には武装した人買いが数十騎押し寄せていた。



「人買いなど追っ払う。」と息巻いていた村の若者も、何もできずにさっさと逃げ出した。



人買いはキャロルの家を包囲していた。








ほどなくイングマルたちがキャロルの家の近くに到着すると、みんなに50mから70mの必中距離を保って射撃するように伝え、奴らが迫ってきたら逃げて、たえず敵から50m以上の距離を保つように伝えた。




それぞれが、30m離れて人買いを半包囲する。




全員が位置につくと、イングマルはキャロルの家の回りにいる人買いの中に突撃した。




クロスボーや剣を使って、次々と人買いを襲う。




不意をつかれた人買いは、イングマルを追い回すけれど、四方からクロスボーの矢が飛んできた。



人買いはパニックとなってしまった。






数人の人買いが、包囲している彼女たちに向かって行こうとしたけれど、イングマルはその後から攻撃する。




彼女たちの射線内にイングマルは入っているのだが、彼女たちの腕を信じているので、迷わず攻撃し暴れまくった。



彼女たちは落ち着いて冷静に、中央で暴れているイングマルを援護するようにクロスボウを射続けた。



そうこうしている内、やがてローズたちの馬車が到着し、整然と並んで完全に包囲すると、クロスボーの一斉射撃が始まった。



人買いは完全に戦意を失い、逃げ惑うばかりとなっていた。





イングマルはそのすきにキャロルの家の屋根に登って、換気口から家の中に侵入した。



屋根裏に入って、「キャロル!」と叫ぶと、キャロルは屋根裏の隅っこでクロスボーと短剣を構えて、屋根裏に上がってくる人買いを撃退していた。



すでに数人やられて、下で転がっている。




イングマルは、傷ついているキャロルをロープにくくりつけて、窓の下にいる馬に乗せた。




すぐイングマルも飛び降りて、2人で馬に乗り、ローズのいる馬車に向かって駆け出した。







それを見た人買いたちが追いすがってくるが、馬車から援護射撃が正確に行われ、人買いたちはたまらず、キャロルの家の中へ避難し、籠城してしまった。




イングマルはローズたちと無事合流し、ローズにキャロルを委ねると、馬車の荷台にあった漆喰用の生石灰袋を1つかついでキャロルの家向かっていき、屋根に登って煙突から生石灰を蒔いた。




20キロの袋全部を、煙突から中に撒き、屋根に火を付けて回る。




家の中から咳き込む声が聞こえて、煙と炎に包まれて、人買いたちはたまらず家の中から飛び出してきた。




そこへ、馬車からクロスボーの一斉射撃が行われ、人買いたちは次々と討たれていく。



生き残ったものは皆、手を上げて降参した。






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