第96話  フリーダの帰還2




翌日、フリーダの村に到着し、大きなフリーダの家にやってきた。




すぐに家族に会うことができた。


両親は大喜びで、家の使用人たちも、皆でフリーダを取り囲んでいた。





フリーダは「エリックは?私、エリックに会いたいの。」と、皆に言った。





家の者は皆困ってしまい、父親は「まぁそう慌てずに、まずはゆっくりくつろいで。」と言いながらも慌てていた。




フリーダは「誰かエリックを呼んで来てくれない?」と使用人にたのんだ。




みんな互いに顔を見て、固まってしまった。




フリーダはそれを見て「どうしたの?エリックに何かあったの?」と聞いた。




みんな黙って顔を見合わせていた。





母親が決意して「フリーダ。落ち着いてよく聞いてね。エリックは結婚したのよ。」と告げた。




フリーダは驚いて「えっ!だってエリックは私と・・・。」




「そうよ。そうなの。でもあなたが、さらわれてからすぐ・・・・。」

母親はなんと言っていいのかわからず、言葉を選びながら答える。





「すぐに?・・・・・どうしてなの?昔からの約束だったのに・・・・・そんなに簡単に?・・・・私を探そうとも、待とうともしないで?・・・・」


フリーダには信じられない様だった。





「何か、向こうの家の事情みたいで。・・・」


「でもあなたなら、すぐいい人が見つかるわよ。」




フリーダは「そんなわけないでしょ!。」と言って、自分の部屋へ走っていってしまった。










その日は、村で歓迎会が催されたが、肝心のフリーダはいなかった。




どういう神経をしているのか?エリックと呼ばれる元婚約者も、嫁さんと一緒に来ていた。


2人とも仲良くて幸せそうだったが、酒が回ってくると、みんな遠慮なく、色んな事を言うようになった。


陰口を言う者も出てきた。




「盗賊団共に手籠めにされて、よくおめおめ帰って来れたもんだ。」



「まったくだ。エリックも早く結婚していてよかった。帰ってきて、汚らわしい体で結婚の続き、なんてことになったら、えらいことだったろう。」



「まったくだよ。」






そんな心ない言葉が聞こえてきた。


そんな言葉を聞いて、ローズが怒りだした。



「ちょっと!あんたら何言ってんだ!みんなどんな思いでここまで来たと思ってるんだい!!」




「ちょっと待ってくれ、そんなつもりじゃねーんだ。苦労したんだな、って言いたいだけなんだよ。」




「やかましい!!。」とローズは男の顔面をぶん殴った。




「な、何しやがる!。」とブッ飛ばされた男は、鼻血を出しながら言う。




ローズは「このゲス野郎どもが!!」そう言うと、男たちを次々と殴って回った。




「や、やめてくれー!!」




会場は大騒ぎとなってしまった。









イングマルに抱えられるようにして、馬車に戻ったローズは、悔しくて泣いていた。




「バカヤローバカヤロー、畜生!畜生!。」とずっとつぶやいていた。







ローズとラウラから見れば、生きて帰り、家族も村も無事だったことだけで、十分幸せなことなのだが、歳若い娘にとって、好きな相手と一緒になれない事は、時に死ぬよりも辛いことだ、とイングマルでもわかる。



彼自身も同じ思いで、今日に至っている。




それ自体は仕方のないことだが、気の毒な相手に、さらなる悪意に満ちた攻撃を仕掛けてくる、理不尽な人間の性を目の前で目撃し、ローズならずとも怒りがこみ上げてくる。



そんなことを言って、誰が何の得をするのか?


言った本人が、弱者をいたぶって、気分がいい、ただそれだけのことである。








翌日、物資を村で購入し、積み込んで、最後にもう一度、フリーダに会いに行った。



しかし、フリーダはまだ落ち込んでいて、部屋から出てこず、会うことができなかった。



仕方ないので、両親に別れを告げて、出発した。







少し残念な結末だったが、無事に帰ったことで、良しとした。




「時間が癒してくれるわよ。」ラウラはそういった。



みんな頷いたが、なんだかモヤモヤしたまま、移動し続けた。








しばらくしてから、後から馬車がかけてくる。





イングマルたちに追いつくと、フリーダが降りてきて、荷物を下ろすと、イングマルたちの馬車に乗り込んだ。




みんなポカーンとしていると、ローズが「ど、どうしたのフリーダ?何のつもりなの?」と聞いた。




フリーダは「私、みんなと一緒にいくわ。私がいないと誰が料理教室を開くの?」と言った。




みんな、「わー!」と喜びの声を上げて、フリーダを取り囲んだ。




ローズは「いいの?せっかく帰れたのに・・・・」とつぶやいた。




フリーダは「家のみんなの無事がわかったから、それでいいの。・・・・ねえ、ローズ。・・・・私に、クロスボウの射ち方、教えてくれる?」と聞いた。




ローズは「もちろん。流し射ちもできるようにしてあげる。」そう言うと、抱き締めあった。





1人、蚊帳の外のイングマルは、少し寂しかったが、みんなが喜んでいるので、まぁいいや、とフリーダの家の馬車を使用人たちに返し、両親にはしばらく一緒に旅を続けることを伝えて欲しいと伝言した。





使用人たちは「お嬢様、くれぐれもお元気で。」と別れを告げて帰っていった。






歌でも歌いそうな勢いの一行は、次の目的地に向けて出発した。






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