第97話  イーリス、マーヤの帰還1







 フリーダは、ローズと同じく、全員の帰還を見届けることを目的にし、新たな決意をして、旅を始めた。




ローズはフリーダと約束した通り、クロスボウを教え、すぐに流し射ちができるようになっていた。



目的が、旅自体になったことで、やる気のスイッチが切り替わったようにやる気が出てきて、戦闘訓練にも身が入ってきた。




もともとセンスが良いのだろう、すぐに何でも上手になっていた。


読み書き算数もみんなに教え、ますます皆はフリーダを慕っていった。




イングマルは、みんなが力を合わせて元気にやっているの見守りつつ、自分は馬上からクロスボウを射る、騎射の訓練をしていた。



馬上から弓を射るのは前からあるのだが、イングマルの今の体格では、どうしても強力な弓を引くことがしにくく、連続していると、どうしても疲れてしまい持続できない。




以前の戦いでも、馬に乗りながらの騎射はかなり体力を使い、たった10数射で疲れてしまい、ちゃんと当たらなくなってしまった。




以前の戦いは、馬車からの一斉射撃で事なきを得たが、いつもそう、うまくいくとは限らない。




馬を止めた状態でなら、馬から降りずにクロスボウを撃つことはできるようになったが、走りながらのクロスボウの装填はどうしてもうまくいかない。




何度もクロスボウを落としてしまう。



イングマルは、馬の腹帯のフックを改良したり、クロスボウを改良しつつ、何度もテストを繰り返した。




クロスボウの装填部分を改良して、肩に掛けたスリングと連動し、クロスボウをフックに引っ掛けた状態にして、上半身を引き起こすだけで、自動的に、装填できるように改良した。




楽に装填できるようになると、クロスボウは片手で取り扱えるので、馬上360度、ほぼ全方位を射界とすることが出来た。




弓の場合、構造上どうしても両手を使わねばならず、射界は左方向のみとなってしまい、右側は死角となってしまう。



つまり、騎馬相手の右方向、右後方に回りこめば、勝機を得られる。




イングマルは、実戦形式で訓練したいところだが、女性たちは馬車は御せるようになったのだが、馬に乗れるものはほとんどいない。


女性は馬にまたがって乗らない、という昔からの習慣があった。



イングマルはみんなに乗馬をすすめて回った。




意外なことに、フリーダが乗馬の経験があった。


上手に馬を乗りこなすようになると、早速フリーダにクロスボウの騎射を教え込んで、模擬矢を使い、射ち合いを始めた。





当初は全くイングマルに敵わなかったが、だんだんとフリーダが命中するようになっていった。




一旦コツをつかむと、フリーダはたちまちイングマルと互角に射ち合うようになっていた。



その姿を見ていた他のメンバーも、「私も私も!」と馬に乗るようになり、騎射をマスターしてゆく。



乗馬の楽しさを知ってしまうと、みんな馬に乗りたがり、馬車でじっとしていていられなくなってしまい、馬が足りないので交代で乗るようになった。




途中の町や村で、自分の馬を買うという者も出てきて、よい馬をイングマルが選んで買っていた。


一行はますます賑やかになってきた。





イングマルは騎射ができるようになった人たち同士でチームを作り、度々、模擬戦をした。




一対一の時とは違い、チーム戦では地形や陣形などで勝敗が変わってくる。


皆は、瞬時に自分に有利な状況を判断できるようになっていき、顔つきも動きも、もはやとらわれていた女性という面影はなくなってきた。




イングマルは、このところ騎馬戦に夢中で、ローズは体が大きいので乗馬は苦手で、ずっとほっとかれてる。









その日は天気が悪いので、ひさしぶりにみんな馬車に乗って、おとなしく移動していた。




もうすぐ次の村、イーリスとマーヤの村である。





2人は一緒に盗賊にさらわれた。


同郷の2人はいつも一緒だったので、お互いに励ましあってきた。




もうすぐ故郷に到着する喜びを隠し切れないでいた。





朝からおとなしく御者をしているローズとイングマルは、並んで座っていたが、深い渓谷が続く道を移動していると、気配を感じた。




イングマルは、気配を感じた方向を見て、木の棒をつかむと、何かが飛んできて、棒でそれを受けた。




鋳物できた、ピンポン玉位の大きさのつぶてで、2センチほどの棘状の鋼の歯が数本ついていて、木の棒に突き刺さった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る