第91話 オルガの帰還
ローズとラウラは、天涯孤独となってしまった。
イングマルは彼女たちに落ち込んでいる隙を与えないように、さらに日課を出した。
戦闘訓練だけではなく大工道具の取り扱いや刃物の砥ぎ、バスケットやカゴの編み方、炭焼きの仕方などイングマルの知っていることは何でも教えてゆく。
彼女たちが知っていることもあったが職人のように早く、正確、たくさん、ということが求められた。
イングマルの教授の後は、料理上手な者たちによる料理教室や洋裁教室が開かれる。
これにはイングマルも生徒となる。
おかげで皆安い材料を使って、美味しい料理を作れるようになってきた。
皆の手足は休む暇もなく、1日があっと言う間に過ぎてゆく。
森の近くを通った時はベリー摘みをしたり、こけももを収穫したりして山菜取りをし、時には魚釣りをして食材の足しにしたりして遊んだ。
しかしどんなに気を紛らわしても起こった事実が変わるわけでも消えるわけでもない。
女性たちの中には「帰るのが恐ろしい」というものが現れてきた。
あるいは「アンナの村で、みんなで身を寄せて暮らそう」と言う者もいた。
ラウラはそんな言葉に対して冷静に「どんなに悲しくても苦しくても、見て知らないといけない。
そうでないと後で必ず後悔すると思う。
私は真実を知って良かったと思っている。」といった。
ラウラの言葉にみんな黙ってしまった。
淡々と日課をこなしながら毎日移動しているとやがて次の目的地、オルガの村にやってきた。
全員、口には出さないけれど「何事もありませんように」と祈る思いだ。
オルガはみんなに励まされながらいつものように晩餐が開かれ翌日村に入った。
オルガはキョロキョロして、村に変わりがないのを見て少し安心した。
やがて家の前に着くとノックして家に入った。
しばらくすると家の中から「キャー!」という悲鳴がして、やがて泣き声が聞こえてきた。
母親は狂わんばかりの喜びようで、大声で泣いていた。
村の人たちも集まってきて「オルガが無事戻ってきた」とわかるとあちこちから拍手が起こった。
みんなその様子を見て安心し、オルガたちを取り囲み抱き合って喜んだ。
やがて村では歓迎会が催されたが、嫌なニュースを聞いた。
この付近では度々盗賊が現れ、しかも集団化してきて村の外へは護衛なしでは気軽に出かけることもできないそうだ。
例によって領主も貴族も騎士も何もしてくれず、自分たちでなんとかしなければならない。
傭兵を雇う金もなく、この辺の村では皆困り果てていた。
歓迎会の主役をオルガとローズに任せ、イングマルは座を抜け出すと村をあちこち見て回った。
村は戦いには向いていない立地であった。
村では有効な備えをしていなかった。
盗賊の襲撃を天災か何かと思っているようで、今まで何もしてこなかったので何か変えよう、という考えは起こらないようである。
しかしこのままでは集団化した盗賊団が大手を振ってやってくるのは時間の問題と思われた。
背後にある小高い丘を登れば、村が一望できる。
イングマルはその丘にのぼると、村を出入りする人の動きまでもが手に取るようにわかる。
「ここで村を監視していれば、襲撃は思いのままだな」と思っていたら、近くで人の気配がした。
「誰かついてきたのか?」と思ったが姿が見えない。
嫌な予感がしてすぐ村に戻った。
歓迎会はもう終了して、後片付けをしていた。
イングマルは村長に会いに行き、盗賊対策に何かしていないのか聞いてみたがなにもしていないという。
「柵でも作っておいてみては?」と言ってみたが「そんなの作ったところで戦い方も知らないものばかりなので、何にもならない」という。
「対策をしている、とアピールすることも重要です。
襲撃者がその気を起こさせないようにするためです。」とイングマルは言うけれど、子供の言うことに全く聞く耳を持たれず、相手にされなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます