第81話 アンナの帰還2
相手が剣を抜くと同時にローズはクロスボーを発射した。
馬上の男の右腕を射抜いた。
男が「うがっ!」と言う声を上げて走り去る。
他の男たちが一斉に「かかれ!」と声をあげて突進してきた。
皆、イングマルに教わったことを思い出し、よく狙い、無駄矢を撃たない様にしてできるだけ引きつけてクロスボウを発射してゆく。
暗闇だったので15mほどの距離なのだが、思った以上に当たらない。
ほとんどのものが初矢を外してしまった。
急いで次の矢を装填する。
盗賊たちも矢を撃ってくるが荷台に守られているので全員無事である。
暗闇というのもあってお互い相手の姿が見えにくく、男たちの怒号と馬のかける音だけで静かな戦いの場だった。
それでも至近距離のものには数発命中させて、男たちはひるんでいる。
少し距離をとって静かになった。
相手の姿は見えないが馬のいななく声や、かけ声がすぐそばの闇の中から聞こえてくるので近くにまだ相手はいるようだ。
女性たちは励ましあってみんな無事を確認し、クロスボウを構えて荷台の隙間から闇を伺う。
しばらくして森の中から叫び声が上る。
馬車からは何も見えないが次々と怒号や悲鳴、叫び声が上がる。
やがて馬車の前に男たちが現れた。
すかさず、そこへ次々とクロスボウを射る。
男達に次々と矢が命中するが馬車には目もくれず、逃げ惑うばかりとなった。
時々見える黒い獣のような姿をしたイングマルに、男たちは追い回され切り刻まれているようだ。
一目散に悲鳴をあげながら、盗賊たちは逃げ散ってしまった。
イングマルは周囲を調べて回り、もう完全に盗賊たちが居なくなったことを確認してさらに1時間ほど見回りながら戻ってきた。
「みんな無事?」と声をかけながら馬車に近づく。
みんながクロスボウをこちらに向けていた。
イングマルとわかると何人もがイングマルに抱きついてきた。
姉さんローズは「ごばがっだー!(怖かったー)」とイングマルにしがみついてびーびー泣き出し、他のものも泣き出した。
イングマルはよしよしとローズの頭を撫でて「みんなでやっつけたよ。」と言った。
盗賊団は全部で15人いた。
みんな逃げてしまったが、全員に手傷を負わせた。
「みんなの初陣だ。初勝利、おめでとう。」とイングマルは言うとみんな笑顔になった。
みんなしばらく興奮が収まらず、ずっと話をし続けた。
イングマルは夜通し警戒したが、夜明けにはみんな疲れて寝てしまった。
皆遅くまで寝ていたが、朝日が眩しくて起きてきた。
イングマルはすでに馬たちの世話を済ませ、周囲を見回って戻ってきたところだった。
イングマルより早く起きて朝食を作らないとイングマルメシになってしまうことを思い出しみんな慌てて起き出した。
全員で日課となっていた素振りを行い、遅い朝食となった。
彼女たちはオートミール粥にキノコの出汁を入れることでかなり美味しく食べれるようになっていた。
イングマルはすぐにこのオートミールが好物となった。
片付けをして、もうだいぶ日が高く昇って出発した。
夕方近くになってアンナの村に到着した。
村に入るなりよそ者に対する冷たい視線が投げかけられたが、アンナの姿を見るなり態度が一変した。
「アンナ!アンナじゃないのかい?」
近所のおばちゃんらしい。
「おばさん私よ!アンナよ!帰ってきたの。私帰ってきたの!」
その声を聞いて近所のものが集まってきて取り囲まれた。
「私早く家に帰りたいの。また後で」と言うと走っていってしまった。
家に飛び込むようにして入ると、暗く沈んでいた家がパッと明るくなったように見えた。
やがて嬉しい悲鳴と泣く声が聞こえてきた。
イングマルたちも近所のものもみんな家の周りに集まって様子を見守った。
しばらくして全員が村の広場に集まり、いきさつを知らされた。
村いちばんの大きな建物で歓迎会が急遽催された。
みんなてっきり、リーダーはローズと思い込んでいた。
イングマルは下男見習いか、と思われていたのですみっこで目立たないようにしていた。
皆がそう思うなら、そのように行動することにしたのだった。
ややこしい説明もしなくてすむ。
気風の良い姉さんローズは村の男たちからモテモテだった。
ローズもまんざらでもないようだ。
他の仲間たちもアンナが幼い子供のように無邪気に喜んで両親に甘えている姿を見て、早く自分も帰りたいと涙した。
遅くまで騒いでそのまま村に泊まり、翌日みんな出発した。
アンナは一人一人と抱き合って別れを言い、最後にローズとイングマルにキスをして別れた。
朝焼けが晴れてくる街道を一行は去っててゆく。
アンナと村人はいつまでも一行を見送った。
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