第80話  アンナの帰還



とりあえず、近くの大きな街へ行って金品を換金することにした。



皆、10日前とは別人のようである。




男装しているとは言え当初の打ちひしがれた表情ではなく、希望に目を輝かせている。



屋敷から回収したものはあまり大きなものはなく、鎧や宝石を散りばめた装身具がほとんどである。




その日のうちに、大きな街にたどり着いた。



すぐに換金できそうな店を探し、換金してゆく。



1軒だけで多くの品を換金しては怪しまれるので、少しずつできるだけ多くの店を回った。



鎧や宝石類はやはり驚くほど高値がついた。




イングマルの目利きのおかげで安く買い叩かれることもなく、換金した金で全員の短剣を購入し、その日のうちに全員に短剣を持たせることができた。




この町では食料や衣服、武器を調達し、あまり多くを一度に換金すると怪しまれるので次の街へすぐ移動した。




30キロほど東へ行き、となりの大きな街にたどり着いた。




ここでも同じように金品を換金していく。




このようにして近隣の5つの町を回り、すべての品を換金した。








アランの館で回収した金貨も合わせて、金貨1万5,000枚にもなった。



1人300枚ずつ分ける。



これだけあればちょっとした家も買えるし、何か商売を始めることもできた。




みんな金貨など見るのも初めてなので、その価値が今ひとつわからずピンと来ていない。




すべての品を換金してからいよいよ一番近い人の家に向かうことになった。



最初の村はアンナの故郷で、アンナはお使いの途中盗賊にさらわれた。




縛られ、猿轡をされ、袋に入れられて先の屋敷に連れてこられた。




毎日、地下牢で泣き暮らしていた。






見覚えのある風景が目に入ってくるようになると、アンナはぼろぼろ泣けてきた。



仲の良かったものが側によって「よかったね。」と言って一緒に泣いてくれた。




明日はいよいよ村に到着できるところまで来て、みんなでお別れの晩餐を開くことになった。




ごちそうが作られて、みんなでお祝いした。





アンナがこんなに泣いたのは捕らわれた時以来だったが、今度は嬉しくて泣いていた。





「みんな本当にありがとう。」と言っているのだろうが、泣いていて何を言っているのかよくわからなかった。




イングマルも「良かった良かった」と言っていたが嫌な胸騒ぎがしてきた。




最後の換金した町を後にした時から感じていた。




どうもつけられている。今も監視されている。




晩餐が終わるとイングマルは馬車で円陣を組むように指示した。




みんながパニックにならないよう、冷静に指示を出す。





取り越し苦労ならいいのだが万が一の時のために、特にクロスボウをすべて装填させた。




イングマルは鎖カタビラを着込んで完全武装になる。



みんなのリーダー役の姉さんローズに「盗賊とわかって射程に入ったら、有無を言わず、荷台を盾にして打つように」と指示を出した。





「決して荷台からは出ないように、無駄な矢は打たないように。」と指示を出す。



そう指示をだすとイングマルはボロマントをまとって、森の闇の中に消えた。



全員がローズから話を聞いて準備した。




みんな緊張と動悸が止まらない。




皆「訓練通りだ、落ち着け、」と気を沈めた。




不思議とさらわれた時のような恐怖は起こらなかった。




まだ何も起こっていないのだが、彼女たちにも敵意を感じることができるようになっていた。



来る。囲まれている。




ローズはイングマルに任されたので「何が何でもみんなを守ってみせる!」と意気込んでいた。



1時間ほどして馬に乗った男たちが現れた。




闇に紛れているが10人以上はいるようだ。




視界にはいった彼らにローズは「お前達、何かようかい?!」と叫んだ。




「それ以上近づくんじゃないよ!」







馬上の男は「お前ら街で随分とたっぷり稼いだようだな。命までは取らねぇ。有り金を置いていけ。」と言うと剣を抜いた。


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