第79話 帰還の準備
みんなが「えっ!」とイングマルの方を見た。
むしゃむしゃ食べていた犬のトミまでが、イングマルを見た。
イングマルは「このような良いものを口にしたら他の食べ物が食べれなくなりますます贅沢になり、際限がなくなります。よってこのようなごちそうは月1回だけです。」と言った。
みんながざわつき始めた。
みんなの殺気をイングマルは感じ取り、少し怖くなった。
彼女たちは我慢できなくなって「そんな!作るのは私たちなんだからいいでしょう!」「ひどい!」「鬼!」「悪魔!」「かぼちゃ!」「説教じじい!」
いろんな怒号が飛んできた。食べ物の恨みは恐ろしい。
「何と言おうと、ダメなものはダメなのです。」とひるまず宣言した。
年長の姉さんローズがみんなを制止させるとイングマルを諭すように「みんなひどい目にあって身も心も弱くなっています。あなたのおかげで少しずつ元気を取り戻しています。あなたには日常でも私たちには非日常です。おいしい食事をとることでもっと早く元気を取り戻すことができます。」
「しかし贅沢が身につくと、いずれ身を滅ぼしてしまいます。」
「このような非日常もみんなが家に帰れば終わります。長くは続きません。贅沢が身に付くより、生涯の思い出の糧となるのではないかな?
この先、辛いことがあっても、この時の経験があれば耐えてゆける気がするの。」
イングマルはそれを聞いて少し考え込んで「1週間です。」といった。
「一週間に一度、これ以上は肥えてしまいます。肥えると動きが鈍る。」
肥えるという言葉に女性たちは大きく反応した。
「父親の権限です。これ以上はダメです。」とイングマルは宣言し、自分の立ち位置を父親と定めたようだ。
イングマルが1番年下なのは一目瞭然で何ともこっけいなのだが本人は真剣である。
女性たちも肥えるという言葉に、これ以上は攻めてこなかった。
そのかわりイングマルメシを自分たちに作らせろ、という。
同じ材料を使って、おいしくなるように工夫するからという。
イングマルはまた考え込んだが、任せることにした。
森の泉に隠れ連日訓練とクロスボウづくりに明け暮れて10日以上経ち、全員のクロスボウが出来上がり予備の分も20丁できた。
イングマルはみんなの実力を計るために「テストする」と言い出した。
イングマルが木剣を構え、1人ずつ女たちにうち込んで行く。
とっさの行動に、どう反応するか見極めていく。
女たちは木の短剣で訓練通り、イングマルの腕の腱、股の内側の腱を狙い通り当ててゆく。
クロスボーも矢の先を布を丸めたものを使い、実戦形式でイングマルが馬に乗って女性たちに向かって駆けてゆく。
布が巻いてあるとは言えまともに当たるとものすごく痛いのだが、痛くてイングマルが悲鳴を上げれば合格である。
ほとんどのものが合格だった。
本気のやる気を人が出せばこんなにも短い間にでも、1人前になれる証明となった。
本物の短剣は屋敷で回収したものを全部合わせても30本ほど足りなかった。
足りない分はとりあえず寸鉄という太い釘のような武器を持たせておいた。
別に急ぐ旅でもないのだが、あまりゆっくりもしていられない。
全員基本をマスターできたと判断し、移動中は全員に男装するように伝えた。
不要なトラブルを避けるためである。
彼女たちも「いよいよ故郷に帰れる」と期待を膨らませ、イングマルの言うことに素直に従った。
翌朝天気が良かったのでいよいよ出発した。
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