第60話  盗賊狩り






やがてエストリア正規軍によって盗賊団のアジトを急襲し、制圧しようとした。



が、拠点の破壊は出来たが捕らえられたり殺害されたものは半分にも満たず、残りは逃げてしまった。




その後、皮肉なことに拠点を失いジリ貧となった盗賊団はより過激になり、逆に周辺の治安が悪化してしまった。




情報を得て正規軍が急襲しても、すぐに逃げ去ってしまう。






相手が弱いとみれば情け容赦せず、女子供はすべてさらってスロトニアにある本拠地に送る。



本拠地のフェルト子爵の居城は、今や人身売買のオークション会場となっていた。












叔父の元にエストリアの高官が訪ねてきたのは、ほどなくのことであった。



再び叔父は皆を集めて話をした。






盗賊団は強い護衛がいると逃げてしまい、いつまでたっても盗賊の数が減らないことに業を煮やしたエストリアの高官は、叔父たちベテラン商人に何か良い対策を依頼してきた。




そこでオトリを使うことにしたのだ。








わざと弱く見せた隊商を作り、これを餌として盗賊団が食らいつくのを待つ。



馬車には戦闘員を隠して乗せる。



この餌に食らい付いたところを撃退するというものだ。







「盗賊団を決して逃さず、全て討ち果たすべし」という厳命である。



その為、強の者を商会から選ぶことになった。





新人たち4人は「待ってました!」と名乗り出た。



イングマルは「あなたたちは人相が悪すぎて盗賊団も近寄らない。」と言い、「御者は僕がやる」といった。




しかし失敗したり相手の戦力が勝っていてとらわれた場合は、全員殺される事は間違いなかった。




結局馬車2台で行くことになり、その一台目の御者にイングマルと商会のメンバー、荷台に傭兵3人。



うち1人は軍の責任者。




もう1台の御者に老人に変装した新人の2人、アルベルトと、サミュエル。


荷台にベルント、マルティンと傭兵2人、総勢11名。





全員、腕に覚えのある強者ぞろいである。



馬車に幌をかけると怪しまれるので、荷台はシートをかけてある。




荷台にはロープや武器、チェーン、盾をたくさん積んである。





さらにイングマルの乗る馬車には、バリスタという大型のクロスボウを軍から借りて積んである。




相手が強力な盾を持っていた場合、通常の矢やクロスボウでは効果が薄い。





バリスタは本来、城門や扉などを破壊したりする攻城兵器の1種である。




これを使って、盾をなぎ倒すのである。





入念に打ち合わせをしていよいよ出発する数日前から、全員にかん口令が出た。




メンバーは「非武装の少人数の隊商が、近々出かける。」と街で言って回った。




どこからどう情報が伝わるかわからないので、このように、情報を流しておく。






よく盗賊が出ると言われる場所は避けて、盗賊の出ていないルートを行く。



自分たちはあくまで、餌になりきらないといけない。






狩りのときでもそうだが「誘いに乗せてやろうとか、引っかけてやろう」とか、邪念を持つと悟られて失敗する。



あくまでおっかなびっくりの態度で居続けなければならない。










派手な見送りもなく、いつもの商売の時と同じようにして2台の馬車は出発した。










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