第59話 間者
家がほぼ出来上がった頃、遠くの街へ使いの帰り大怪我をしている男を見つけた。
剣で斬られた傷で、虫の息である。
盗賊にやられたのかと思っていたが男はイングマルに介抱されると最後の力を振り絞って、胸から血塗れの手紙をイングマルに渡し、何か言おうとしたがよく聞き取れなかった。
そのまま、力尽きて死んでしまった。
男の持ち物を回収し墓を立てて帰って手紙を見てみたが知らない文字ばかりで、何が書いてあるのか全くわからなかった。
叔父にいきさつを話し手紙、男の持ち物を渡した。
叔父は手紙を一瞥すると、顔色が変わって書斎に引っ込んでしまった。
翌日早く、叔父は護衛を引き連れて急いでどこかに出かけて行った。
遅くに帰ってきて「皆に話がある」と食堂に集め、手紙の1件のことを話し始めた。
手紙はエストリアの高官宛で、死んだ男は内務省のスパイであった。
エストリア国内の盗賊団のアジトや構成メンバー、その背後関係が詳しく書かれたものだった。
イングマルが最も驚いたのは、その黒幕にフェルト子爵の名があったことだ。
1年以上前、マクシミリアン学園前で公爵の息子フィリップ・ヴァーベルトと子爵の息子マティアス・フェルト、男爵の息子ヨルゲン・オーバリの3人を惨殺した。
公爵はその後イングマルに追手を送るが果たせず、自らの行為によって自滅した。
もう1人、フェルト子爵はイングマルへの復讐を果たそうとしたが人を雇うだけの財力がないので自分の領地を盗賊たちに開放し、有望なものを集めようとした。
貴族の領地は基本的に治外法権なので、たとえ国王の兵といえども勝手に捜査ができない。
その土地の領主によって、処理されるのが基本である。
それを良いことに子爵の領地は盗賊の根城としてここを拠点にし、各地で悪事を働いていた。
子爵の領地は、もう盗賊の国のようになっていた。
子爵自身はすでに彼らを抑える力も気力も失っており、盗賊団のやりたい放題。
しかも盗賊たちから上納金と女を献上され、子爵は次第に無気力になり快楽に身を委ねる毎日を送るようになっていた。
盗賊団は安全な居場所を得てから勢力を拡大し、すでに本拠地は兵力500以上となり1個軍の兵力となっていた。
それらの1部がエストリア領内に新しく拠点を作り、領内で本格的に悪事を働こうとしている。
大隊商を襲ったのもこのメンバーだった。
スパイはこの拠点と構成メンバーを調べあげて国王に報告する途中、盗賊団にやられたらしい。
エストリアのベネディクト国王は 素早く対応した。
直ちに領内の拠点の壊滅作戦が行われることになり、すぐ兵を集めさせている。
準備が出来しだい、出撃するとのことだった。
叔父が皆を集めたのは作戦が終わるまで拠点の地域には近づかないこと、用心のためさらに単独での商売は行かないことを知らせるためだった。
イングマルの心は複雑だった。
ここでもイングマルの昔の行為が巡り巡って、今回の騒動の原因となっている。
しかし落ち込んではいられない。
このまま盗賊団を放置しておくわけにはいかないのだ。
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