第44話 老人3
イングマルは先回りして盗賊のねぐらと思われる場所を一望できるところまでくると馬車と馬を森の中に隠し完全武装になった。
このスタイルも久しぶりである。
鎖かたびらも小さくなっていたのを叔父が大きく仕立てなおしてくれていた。
盗賊のいる建物はそんなに大きくない。
カヤぶき屋根の古い民家である。
盗賊は10人はいなさそうであるがどうやらとらわれているものが他にもいるようだ。
イングマルは「少々困ったなぁ」と思った。
少女1人ならいざとなれば抱きかかえてでもダッシュできるが数人だとなるとそうもいかない。
しかも陰ながら手助けなんて到底無理だなと思った。
イングマルは一旦馬車に引き返し荷台の中から漆喰用の生石灰袋を取り出し懐紙に詰めて握りこぶし大の大きさに丸め麻紐で閉じた。
目潰しにするためである。
この目潰しをいくつか作り鞄に詰めていく。
さらにこの生石灰袋を1袋抱えると麻紐も持って再び農家に近づいた。
軒下の薪の積んであるところに石灰袋を置いて口を開けその上に水筒の水をちょっとづつこぼれるくらいにして空けておいて、ほぐした麻紐を粉の上にふんわりとのせその上に小枝を積み、さらにその上に薪を重ねあわせておいた。
簡単な時限式の発火装置である。
さらに家の周りを回って屋根の上の換気口から家の中に侵入できた。
昼でもくらい天井裏は周りが暗くなってきてからは真っ暗である。
天井裏から部屋の中がよく見えた。
少女3人が部屋の隅に縛られて捕らわれていた。
盗賊たちは全部で5人。
呑んだり食ったりしていた。
横になって暖炉の前でグーグー寝ている者もいた。
誰かを待っているようである。
もう一度外に出て屋根の上から周りを見ると老人が馬に乗ってよたよたとやってきた。
老人の行動に合わせてタイミング良く行動せねばと思っていると老人は堂々と玄関から勢い良く入ってきた。
男たちは一斉に「なんだ、じじい!」といった。
老人は「孫を返してもらおうか」と言った。
その声を聞いてとらわれていた孫娘が「おじいちゃん!」と叫んだ。
男たちは取り囲まれたかと思い一斉に剣を取り出して構え窓の外を見たが別に人の気配がない。
裏口から飛び出した者も外に誰もいない。
「なんだ!じじい 1人か!」と言った。
「そうだ!お前らなんぞはワシ1人で十分だ!」と威勢よく叫んだ。
男たちは急に気が緩み、ゲラゲラ笑い始めた。
「おもしれえ、相手してやる」と言って男が前に出た。
老人が「でゃー!」と大剣を横に払った。
一度はかわされもう一度目は剣でいなされる。
老人は勢い良く上段に構えたが重い剣の反動で後ろに仰向けでひっくり返ってしまった。
剣を離せばいいものを離そうとしないので足をばたつかせ仰向けのままもがいている。
男たちはなおいっそうげらげら腹を抱えて笑い出した。
孫娘は「おじいちゃん!」と悲愴な顔で叫ぶ。
他の少女たちも同じような顔でため息をついた。
イングマルも「あーあ」という気分だ。
イングマルはバンダナを巻いて鼻を覆い目潰しを取り出す。
老人は「くそっ、くそっ」と相変わらずもがいていたが笑って見ていた目の前の男は「あの世に行きな!くたばり損ないが、!」と 剣を大きく振りかぶった。
その男の顔に目潰しが命中し、袋が破けてあたりは粉がもうもうと立ち込めた。
他の男たちにも次々と目潰しが弾け、周りが見えなくなった。
男たちの咳やくしゃみやらが聞こえる。
やがて、本当の煙が室内に入って来て火柱が上がった。
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