月光に映りし影法師

カザミウサギ

プロローグ

 ×××お姉ちゃん!

 だ××き!

「私もだよ、××××××。」


 ごめ・・・なさ・・い。ヤクソ・・・・ク、守・・・・れなk・・・。


「うそ、だよね。ねぇ・・・・。目を開けて!

 お願い!私を独りにしないで!」


『もう二度と奪わせないって、

 守り抜くって、決めていたのに、私は・・・・・また、同じことを!』



 ピチョン・・・ピチョン・・・・・・ピチョン・・・。

 暗闇に響く水音、天井の至る所から滲み出るしずくが地面を静かに打ち鳴らし、こだまする。その数滴が、横たわるひとりの幼い少女の頬に静かに落ちた。

 少女は一瞬顔をしかめた後うっすらとひとみを開け、今し方見ていた光景が自分の過去を反映した夢であると気付く。

 弱々しく呼吸をする少女の左目はまるで快晴の青空の一部を切り取って張り付けたかのような透き通った空色、右目は吸い込まれそうな程濃く深いそれでいて少女の年には不相応なつややかな紫色をしていた。

 少女は暗闇の中で、自分にまだ意識がある事を酷く残念に思った。

『なんだ・・・・・まだ、死んでなかったんだ。

 やっと死ねると思ってたのに・・・・・・。

 あの時、死ぬのが私だったら、皆が死んだのは全部私のせいだ。』と少女は心の中でそう呟くのはもう何度目なのかわからなかった。

 少女の両手がスッと少女自身の首へと伸び、両手に力が込められる。次第に少女の脳は酸素不足になり、死にたいという思いとは裏腹に身体はじろぎ、酸素をほっのどからひゅっひゅと音がする。しかし、人間の首を手で絞めて殺すにはかなりの力が必要とされる、そんなことを幼い女にはとても困難なもので、ましてそれを自分にするとなれば尚更だ。

 そして、少女自身もこれでは死ぬことはできないと理解していた。理解していても少女はいちの望みに掛けたのだった。しかし、少女の思いもむなしくいつまでたっても死ぬ様子がないことで、少女の手に込められる力も徐々に弱まっていく。

「カッハ・・ケホケホ」とまともに呼吸が出来るようになるとしばらくハーハーと荒々しい呼吸も正常なものへと戻っていく。

 自分がいくら死を望もうともそれは叶わないという現実を突き付けられた少女の両の瞳がうるみ、しずくが頬を音もなく伝った。
















「やめて!もう、誰も殺さないで!

 僕の命をあげるから、もう何も、誰も奪わないでくれよ!お願いだ!」と懇願する一人の少年の悲痛な叫びは、誰かに届くことはなく、周囲に響き渡る叫喚の渦に掻き消される。

 次々に奪われていく命を幼い少年はただ見ていることしかできないという自分の無力さを呪う。


[赤]それは否定することも、拒絶することさえも許されず、紛れもない現実として容赦なく幼い少年に絶望・嘆き・憎悪という感情を植え付け、人々の死の声が聴覚を狂わせ、その純粋な瞳に地獄絵図と呼ぶに相応しい光景を焼き付けるのだった。

 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか少年の周りには既に人間の姿は何処にもなくただおびただしい数のしかばねが転がる。

 ある者は、身体中から血を流しまたあるものは焼けただれた無惨な姿をしている。

 フラフラと歩を進め始める少年の身体にも生々しい痣や切傷が見てとれ、傷口からは血が滲み動く度に幼い少年の身体中を痛みが襲う。しかし、少年は止まることなく進み続ける。

 少年は人知れずに思う、この場で生き残ったのは奇跡と言えるだろうと。

 しかし、少年にとっては今この時を生きているということ事態こそが地獄だった。

『[赤]が僕から全てを奪った。』 とその日を境に[赤]は少年にとって憎むべきものとなった。
















 数年後、理不尽なこの世界で大切なものを奪われ、失ったまだ幼い少女と少年が出会うことなど知るものはいない。

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