第1178話あしひきの 山辺に居れば ほととぎす
橙橘初めて咲き。雀鳥翻り泣く。この時候に対ひ、あに志を暢べざらめや。よりて、三首の歌を作り、もちて鬱結の緒を散らさまくのみ。
あしひきの 山辺に居れば ほととぎす 木の間立ち潜き 鳴かぬ日はなし
(巻17-3911)
ほととぎす 何の心ぞ 橘の 玉貫く月し 来鳴き響むる
(巻17-3912)
ほととぎす 棟の枝に 行きて居ば 花は散らむな 玉と見るまで
(巻17-3913)
右は、4月の3日に内舎人大伴宿祢家持、久邇の京より、弟書持に報へ送る。
橘の花がこちらでも、ようやく咲き始め、ホトトギスが飛び回っては鳴いています。
こんな素敵な時期を迎え心に浮かぶことを、言わないでいることなどできるものでしょうか。そのようなことで、歌を三首詠んだので、ふさぎ込んでいた思いを晴らそうと思ったのです。
こんな山の中にいると、ホトトギスが木の間にあちこちいますし、鳴かない日はありませんよ。
さて、そのホトトギスは何を考えているのでしょうか、橘の花を薬玉に通す時期を、わざわざ選んで鳴き騒いでいるのですから。
ホトトギスが、棟の枝に飛んで留まったとしたら、花もおそらくパラパラと落ちてしまうでしょう。こぼれ落る玉のように。
久邇京は、木津川を挟み、山に近い、狭い都。
この歌が詠まれた時期も、実は造営中。
聖武天皇が大宰府で乱を起こした藤原広嗣を恐れて、平城京を逃げ出したための遷都。官僚でもある大伴家持は、しかたなく、家族から離れてその新都にいる(いなければならない状態)なので、歌全体に「ボヤキ」が込められている。
尚、大伴家持は、ホトトギスを好んだ家人。(誰よりも先にホトトギスの声を聞かないと気が済まない、と言われたほど)
家持の万葉集中の154首のうち、64首を占める。
そして、このホトトギス三首は、家持生涯のホトトギス詠64首の先駆けを為している。
そのきっかけを作ったのが、弟書持との歌の詠み合いだった。
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