第1159話我が背子を 我が松原より 見渡せば

天平二年庚午の冬十一月、大宰帥大伴卿の、大納言に任ぜられて、帥を兼ぬるのこと旧の如し。京に上りし時に、傔従等別に海路を取りて京に入りき。ここに羇旅を悲傷して各々心を陳べて作りし歌十首


※天平二年庚午の冬十一月:720年11月。

※大宰帥大伴卿:大伴旅人。

※帥を兼ぬるのこと旧の如し:遥任。大納言でありながら、太宰帥を兼ねていた。(奈良平城京に戻ってはいた)

※傔従等別に海路を取りて:従者たちは、海路にて平城京を目指し、入った。


我が背子を 我が松原より 見渡せば 海人娘子ども 玉藻刈る見ゆ

                       (巻17-3890)

右の一首は、三野連石守作る。

※三野連石守:伝未詳。旅人傔従の引率者の可能性あり。


私の愛しい人を、私がしきりに待つと言われる松原から見ていると、海人や娘たちが、玉藻を刈っている姿が見える。


船出する港の松原から、いつも通りの、海人や娘たちの作業風景を見る。

これも、海がない、奈良平城京に戻れば、見ることができなくなる。

今までは当たり前の風景が、旅立ちの今になれば、実に貴重な最後の風景になる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る