第1132話由縁ある雑歌(21)

ひさかたの 雨も降らぬか 蓮葉に 溜まれる水の 玉に似たる見む

                       (巻16-3837)

右の歌一首は、伝へて云はく

「右兵衛のものあり。姓名は未だ詳らかにあらず。歌作の芸に多能なり。

時に、府家に酒食を備え設けて、府の官人らに饗宴す。ここに饌食は盛るに、皆荷葉をもちてす。諸人酒酣にして、歌舞駱駅す。すなはち、兵衛を誘ひて云はく、『その荷葉に関けて歌を作れ』といへれば、たちまちに声に応げて、この歌を作る」

といふ。


雨が降ってはくれないでしょうか。蓮の葉に落ちて溜まった水が、玉のようにキラキラと輝くところを見たいと思うので。


右の歌一首には、次のような伝承がある。

「右兵衛に務める男がいた。姓名については、詳しくわからない。歌を作る技術に特に秀でていた。

ある時、右兵衛の役場で酒と食事の場を設けて、配下の官人に振る舞った。

この時に、食事は、全て蓮の葉に盛られていた。宴会は、酒が進み、歌も舞も、盛況となった。その時に、人々が兵衛の男に声を掛けて、「その手に持った蓮の葉に掛けて、歌を詠んくれ」とはやし立てると、早速にその声に応じて、この歌を作った」とのことである。


確かに、蓮の葉に溜まる水は美しい。

(この蓮の葉に、美女、恋を想起させる学者もいるが、この宴会の席の歌では、なじまない、こじつけ過ぎに思う)

味が濃い料理が続き、喉が渇いた(酒ではなく、水が飲みたい)が、兵衛の男の本音だったと思っている。

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