第389話羇旅にして作りき(24)

大汝 少御神の 作らしし 妹背の山を 見らくしよしも

                    (巻7-1247)

※大汝:大国主命。

※少御神:少彦名神。

大汝の神と少御神がお作りになられた妹背の山を見るのは、実に素晴らしく思うのです。

紀伊路での作で、妹背の山を見て、国土創生の大国主命と少彦名命に感謝する。

やはり男女が末永く仲良く寄り添うことは、大切なこと、その羨望の思いを込める。


我妹子と 見つつ偲はむ 沖つ藻の 花咲きたらば 我に告げこそ

                    (巻7-1248)

私の愛する妻と思って偲ぶことにします。沖の花が咲いたら私に教えてください。


沖の藻は咲きそうになっているけれど、まだ蕾のまま。

偲ぶ対象は、故郷で自分を待つ妻。

前の歌で、睦まじく並び立つ夫婦の山を讃えた作者は、一転、家で待つ妻を思う。

土地の海人などに呼び掛けた形を取る。




君がため 浮沼の池の 菱摘むと 我が染めし袖 濡れにけるかも

                    (巻7-1249)

※浮沼の池:所在未詳。

愛しいあの人のために、浮沼の池の菱の実を摘もうとして、私が染めて作った着物の袖が、濡れてしまいました。

女の立場の歌。

相手に贈るものを得るために苦労したと強調するのは、当時の人々の風習であったようだ。


妹がため 菅の実摘みに 行きし我 山道に迷い この日暮らしつ

                    (巻7-1250)

家で待つ愛しいあの子のために、山菅の実を摘みに出かけた私は、深い山道に迷い、一日を過ごしてしまいました。

前の歌を受けて、夫の立場で詠んだ歌。

これも相手に贈るものを得るために苦労したと強調する。


この四首は、左注では、「柿本朝臣人麻呂の歌集に出づ」となっている。



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