第292話山辺赤人 紀伊国玉津島を詠む。

神亀元年甲子の冬十月五日、紀伊国に幸したまひし時に、山部宿禰赤の作りし歌一首。


やすみしし わご大君の 常宮と 仕へまつれる 雑賀野ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 清き渚に 風吹けば 白波騒き 潮干れば 玉藻刈りつつ 神代より 然そ尊き 玉津島山

                                (巻6-917)


我が大君が永遠の宮としてお造りになられた雑賀の離宮から、後ろに見える沖の島の清い渚は、風が吹けば白波が勢いよく立ち、潮が引けば常に藻を刈っております。

神代の昔から玉津島山は、このように尊いのです。



歌は典型的な儀礼歌。

最初に天皇(聖武天皇)を讃え、その永遠の宮である雑賀野から背後に見える沖の島まで、行幸先の宮から見える玉津島の島々のことを詠う。

雑賀野は現和歌山市西、雑賀崎の野で、このあたりに玉津島の宮があったと言われている。

その後に、玉津島を褒め(土地褒め)で、締めくくる。


単純で、典型的な儀礼歌ではあるけれど、その時代のその土地や自然の風景が見えてくる。

現代日本では見えなくなってしまった風景もあるかもしれない。

それを思うと、また、別の観点で、この歌の心を感じることが出来る。



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