第213話坂上郎女 言ふことの 恐き国そ

言ふことの 恐しき国そ 紅の 色にな出そ 思ひ死ぬとも

                       (巻4-603)


人の言葉や噂の恐い国なのですから、恋に苦しんで死ぬようなことがあっても、決して表情になど出してはなりません。


言霊の国においては、人の言葉や噂が、死を招くようなことになりかねない。

個人の死だけではなく、家族や一族にまで、怖ろしい結果をもたらすこともある。

あの栄華を誇った長屋王でさえ、根拠の薄い告げ口にて、妻子を含めて悲惨な最期となってしまった。

それを考えれば、恋の思いとて、他人に気取られるような表情に出すべきではない。

下手に表情に出せば、それは邪推の原因となり、一族に悪い結果をもたらさないとも限らない。


坂上郎女は、大伴家持の叔母にして、大伴一族を支えていた。

表面上は、勢力著しい藤原氏と上手にやってはいるものの、いつ寝首をかかれるのかわからない。


この歌は、単なる相聞ではなく、大伴一族全体への戒めのような気がする。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る