第79話 飫宇の海の

出雲守門部王の京を思ひし歌一首

飫宇おうの海の 河原の千鳥 汝が鳴けば 我が佐保川の 思ほゆらくに

                          (巻3-371)

飫宇おうの海に注ぐ意宇おう川の河原の千鳥。

お前が鳴くと、私の故郷の佐保川を思い出してしまう。


※飫宇の海:島根県の宍道湖の横の中海。

 河原は、その飫宇の海に注ぐ意宇おう川の河原。


出雲守門部王が、故郷奈良佐保川を懐かしんだ歌。

古来、鳥は死者の魂の宿るもの、冥界との往復が可能なものと信じられていた。

鳥の鳴き声に、故郷を思い出すなど、現代の生活では考えられないけれど、羽を持ち遠距離を移動する鳥に、自分の故郷への想いを伝えて欲しくなったのだろうか。

それとも、鳥の鳴き声は、故郷で待つ妻の言葉を伝えているのだろうか。


尚、四句目で、地名に「我が」を関するのは、万葉集に唯一の例。

これもまた、不思議な面白さを感じる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る