第77話 笠朝臣金村 越の海の
越の海の 角鹿の浜ゆ 大船に ま梶抜き下ろし
いさなとり 海路に出でて あへきつつ 我が漕ぎ行けば
ますらをの 手結が浦に 海女娘子 塩焼く煙
草枕 旅にしあれば ひとりして 見るしるしなみ
わたつみの 手に巻かしたる 玉だすき かけて偲ひつ 大和島根を
(巻3-366)
反歌
越の海の 手結が浦を 旅にして見れば ともしみ大和 偲ひつ
(巻3-367)
敦賀の津から船に乗った時に、笠朝臣金村が作った歌一首と短歌。
越の海の角鹿の浜から、大船に左右に梶を取り付け海に出て、息切れしながら私が漕いでいくと、手結が浦に海女乙女が塩を焼き、その煙が立ち昇っている。
旅の空のことゆえ、一人では見るのも面白くはない。
海の神が手に巻かれている玉、その玉だすきを懸けるように、大和の国のことを心に懸けて祈った。
越の海の手結が浦を、旅の途中で見て素晴らしいと思ったら、大和で待つ妻のことが愛しくなってしまった。
※いさなとり:海にかかる枕詞。
※手結が浦:敦賀湾の東岸敦賀市田結びの海浜。
笠朝臣金村は、海から見た海女乙女の塩焼き煙を面白いと思ったけれど、それを大和で待つ妻にも見せたいと思ってしまった。
また「手結びが浦」という地名から、妻が自分の着物の紐を結んで旅の平安を祈る「手結び」という風習にも、気持ちが及んでしまった。
いっそう、妻を思い出し、逢いたくなってしまったのではないだろうか。
海神の名まで出して、「この寂しい気持ちを何とかしてください」と祈る。
家に残してきた妻や恋人を心に思うことで、旅先での不安に動揺する心を鎮めようとする、そんな思いが満ちた歌と思う。
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