📖プロ意識の高いサンタクロースと 不器用だが優しい女性で 誰も得しない復讐劇
夜明けが近い。疲れが見える瞳のトナカイたちの首を撫で、静かに囁く。
「お前たちが頑張ったおかげであと一人だ。さぁ急ごう」
トナカイたちの引く艝の荷台にあれほどあったプレゼントも、残すところ最後のひとつ。
艝に乗り込み手綱を握ると立ちはだかるようにフラりと女が現れた。見覚えがあるが誰かはわからない。ただ懐かしい感情が沸き起こる。
「君は誰だ」
トナカイたちも不思議がってこちらを見ている。そう、先を急ぐ。何としても今夜のうちにこのプレゼントを配り終えなければならないからだ。
女はふわりと微笑んだ。
「覚えてないの、私を。そうでしょうね。お間抜けさんなのだもの。そんなだからあなたはいつも苦労するのよ」
「私と話がしたいなら艝に乗ってくれ。あとでちゃんと送り届けるから」
「その必要はないわ。私は復讐者だから。あなたの邪魔をしにきたの。最後のプレゼントは私にちょうだい」
不思議だった。プレゼントはこどもたちのものなのに、確かに最後のプレゼントを渡す相手の少女のデータが目の前の女と一致していた。通常同じ世界に同じ人間など二人といない。
「皆がプレゼントを楽しみにしている。あの子だけ目覚めてプレゼントがないと知ったら悲しむだろう」
「昔。あなたが私にくれたもののせいで、あなたは復讐されているの。あの子なら平気よ。プレゼントがもらえないくらいなんでもない。世界はもっと残酷だってちゃんと知っていくのだもの」
「大変興味深い。でも時間切れだ。私は私の仕事をするよ」
一気に艝を空へ。聖夜にしか出来ない芸当だ。特別な力を与えられたのは同時に、特別な役割を果たす責務があるということ。足早なトナカイたちのベルの音がシャンシャンと揺れる。
忘れている。彼女が誰で、自分がいつか何を与え、恨まれてしまうほどの出来事。そのくせ彼女はふわふわと笑う。まるで楽しげに。
「そんな簡単に。誰かを幸せにできたなんて思わないで」
「驚いたな。いつ艝に?」
隣で悠然と笑う女に少し驚いて、何故か安堵した。
「言ったでしょう? あなたの邪魔をしにきたの。やがてあの子が心底欲しがるのはこんなプレゼントなんかじゃないし、あなたには叶えられない」
「だとしても。今は皆と同じありきたりの幸せがあの子にはある」
「幸せは人を強くするわ。幸せがいっぱいあればあるほど、痛みが鋭く深く刺さっても死ねない。幸せは不幸せ。あなたがこんなに私を苦しめるのに覚えていないのだから笑うしかないわね」
「つまり。私が君に、皆と違う特別をあげたと?」
「もういらない。何ひとつ。あなたからは受け取らない」
「だがさっき君は、あの子の分を自分にちょうだいと言っただろう? 本当は違う、何か目的があるんじゃないか?」
「あの子にプレゼントを渡したいなら私を倒してからいきなさい」
「物騒なはずの話も君が言うと可愛い」
「私をあんまり軽視していると痛い目をみるわよ?」
「そうじゃない。むしろ逆だ」
何も知らない少女がスヤスヤと夢を見る頃。抱き寄せた人肌の温もりは意外と温かい。お化けか何かの可能性は消えた。驚いて絶句した女の額にキスをして、プレゼント片手に颯爽と艝を降りたらあとはゴールを決めるだけだ。
「サンタさん?」
「いい子はまだ寝てなきゃ駄目だ。プロは姿を見せない」
「起きてたらプレゼントくれない?」
「本当はそう。だけど今日は特別にあげよう。メリークリスマス。さあ目を閉じて」
雑にワシャワシャと頭を撫でたのに少女は満足そうに目を細めた。
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