第4話
最終夜
午後3時頃、江戸川 智裕の上司、小野 大造は、血相を変えて彼にかけよった。
エルミス工業様の機械の調子がおかしいそうだ、月末の最終ロットを出し切らなくては不味いらしい。直ぐに対応してくれ。
「わかりました。」
智裕は、中小の工業製品をパッケージングする機械を製造販売する会社で、営業担当をしていた。
この種の機械は、売ることより、売ったあとが、大切で、機械を購入してくれた会社の出荷を左右するので、常にアフターケアを重視していた。
智裕は、すぐにエルミスに行くことにしたが、自分だけでは、解決出来ないと思い、技術系同期の無限寺 五郎に同行してもらうことにした。
しかし、無限時は、江戸川が先に行って正確な情報を伝えろ、必ず交換パーツが発生するから、自分は補給センターに直行すると。
言われたとおり江戸川は、エルミスに直行し、機械の状態を調べる。自己診断機能が働いていない。これはメカニカルな問題ではないことまでは突き止め、無限寺に連絡した。
既に6時をまわっており、エルミス側にも焦りが見える。
何度か、無限寺に連絡するが、答えは「待て」
智裕は、『何としても間に合わせます』とエルミスの生産管理部長をなだめた。
8時になり、無限寺が、コントロールユニットを交換すると、大きな箱を持ち込んできた。2人で慎重にユニットを交換した。調整をいくつかして、パッケージングマシンは正常に動きだした。最終のトラックは11時、残りを全て終えるには、通常のピッチでは間に合わない。
無限寺と相談して、通常の能力を超えたピッチで回すことにした。
智裕は、メカ部分に負担がかかるので、次の定期点検で、いくつかの部品を交換するが、その費用はこちらで持つことを、小野 大造に了承させ、機械を再始動した。
10時50分、最後の箱をトラックにつめこみ、なんとか作業は終了した。
智裕と無限寺は、遅くまでやっている居酒屋で、祝盃をあげた。
物を造って売るのが仕事ではない。人の役に立ち、喜んで貰うことが仕事なのだ。そう、2人で納得しあい、家路についた。
翌日、月も変わった1日、智裕は『牛の穴』をたずねた。
何時もの席に案内され、何時ものように注文したが、相席の要請はない。
そう言えば、カホは暫く休むと言ってたな。
食べ終わり、部屋で勘定する時に、仲居に『バイトのカホさんは、次、いつ来られますか?』
仲居は当惑して、「うちは、バイトさんは雇ってないんですよ。老舗ですから。」
智裕は、思いきって、これまでのことを説明した。
「うちが、ご相席をお願いすることはございません。老舗ですから。」
それではと、一昨日の勘定を見せて、半額になっていることをつきつけた。
「これは、30週年記念に一月だけ皆様にご紹介した半額プランですよ。最近競争が激しくて、いたしかたなくです。老舗ですが。」
といって、昨日まで使っていたという説明がきをみせてくれた。
確かに、自分の言ってることはありえないと思えてきた智裕は、肩を落として家路についた。
その夜、智裕はこんな夢を見た。
小さな牛が大切に飼育され、可愛がられ、やがて出荷されていくものだった。ハッと目が醒めると、少しあせばんでいた。
とても複雑な気持ちだったが、なんとなく理解した気持ちになった。
数ヶ月後、プライベートで東京ヘ行き高輪にある、牛供養搭をたずねてみた。
終わり
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