ニートが斬る!!
軽井 空気
第1話 自由業の人斬り
「働きたくないで御座る。」
それが心からの願いだった。
「あの、えぇーーーと?」
「働きたくないで御座る。もう、戦いたくないで御座る。」
それは誰もが思うことだろう。
しかし、彼にとっては驚愕の事。自分の口からこんな言葉が出るなんて生まれてから死ぬまでの人生を振り返ればあり得ないことだっただろう。
だからこそその願いは切実である。
「落ち着いてください。っちょ、顔が近いですよ松永さん。」
「毎日毎日、来る日も来る日も敵を斬り。来る敵来る敵首を斬っていたら嫌にもなろうが。つまらぬものを斬るのはあきたで御座る。」
「や、マジで顔近いですってば。ちょっ、つば飛ばさないでください。」
「
「解りました。解りましたからステイ。落ち着きなさい。」
「はい。」
白く神々しい何かが満ちた空間。そこには一人の男と女がいる。
男は侍。いろいろ擦り切れて疲れ切った感じの浪人か落ち武者の様な風貌の男である。
女は女神である。
その姿は宗教画に描かれる天使のような純白の衣に身を包んだ幼さの残った顔立ちはマジ女神。後光のごとく輝く背景がそのきゃしゃな体を包む衣装を透かしていて浮かび上がるシルエットはマジ女神。特に股下を通る光はなお神々しくまさしくここに天国の門はあり。さぁ、その門をいざ開か……
「あのぉ、なんでいきなりひざまずいて拝み始めたのです?」
「はっ。今しがたとても尊いものを目にしたところ拙者、己の矮小さを気づいたで御座る。が、己が矮小を知ればこそなお尊くなるという。」
「とりあえずそこに正座。」
「はっ。」
「松永さん。
「拙者のことはしゅうちゃんと
「ま・つ・な・が・ひ・で・ひ・ら、さん。」
「……ハイ。」
「あなたはそれでも侍ですか。っ――――それでも侍ですか。」
大事なことだから二度言った。
「侍と申しても拙者はしがない人斬り、それも生前の話で御座るし。」
「それでも誇りとか矜持とかあるでしょ。」
「そんなもの異世界転生とやらの先で使い果たしてもうたわ。」
どうだとばかりに胸を張る松永に女神は頭痛をこらえるかの如くこめかみを押さえては溜息を吐く。
「確かに貴方の働きはすごかった。おかげであの世界の人々は魔王の脅威から解放されて発展していくことでしょう。」
平和になるとは言わぬか。と、松永は内心では思うもそれを口にはしない。
何よりそのことが松永を疲れさせたのだから。
「貴方を異世界に送った
「隠居したいで御座る。日がな一日ゴロゴロして、ただ道楽だけで余生を消費したいでござる。」
「分かりました。それが貴方の願いであるなら叶え―――
「待つで御座る。――――それには一つ条件がある、で御座る!」
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