NAMELESS

聖 聖冬

イルザ

私はドイツ人の父と日本人の母の間に生まれた、父の仕事の都合で高校入学と同時に日本に移住し、愛知県の瀬戸市と言う場所に住むことになった。

言葉は分からない、ドイツと随分景色も違う。そんな環境の急変に恐怖もあったが、日本はドイツとよく似ていて、人も優しい綺麗な国だと、皆が、メディアが、世の中がそう言うから恐怖もそれ程無かった。


高校の前まで車で送ってくれた母にありがとうと言い、1度だけ空気を大きく吸って吐き出してから車を下りる。

何故か既に少しだけ注目を集めていて、何とも言えない好奇の目が多く感じる。


少し訳があって半年経ってからの初登校だからか、むず痒さを覚えながらも下駄箱でローファーを履き替え、綺麗なスリッパに履いて職員室まで歩く。


3度ノックしてからドアを開いて職員室に入り、「失礼致します」と少しだけ小さくなった声に、一部の視線が集まる。


「あれ、見ない顔の子だけど」


「あぁ、私の生徒です神谷かみや先生。諸事情で今日からの登校になっていた、イルザ・ストレング・ルーエンハイド・テルミヌス・セイクリッドてす」


「はい、宜しくお願い致します。名前が長くなるので、私の事はイルザとお呼び頂ければ幸いです」

教員にお辞儀をして職員室から辞す。


「いちの、さん組の教室は……」


「イルザさん、丁度授業なので教室まで案内します。この学園は少し広いですから」


後から出てきた担任が私の少し前を歩き始め、階をひとつ上がった端の教室の扉の前で待たされる。

制服のリボンをちょいちょいと指先で直し、内側から開けられた扉を潜って教室に入る。


全員の視線が一気に集まって全身を見られ、ホームルーム前のぐちゃぐちゃな教室が、一瞬だけ静かになった後話し声で埋もれる。


「今日から登校することになったイルザさんです」


「ドイツから来ました、イルザ・ストレング・ルーエンハイド・テルミヌス・セイクリッドです。長いのでイルザと呼んで下さい、半年ですが宜しくお願い致します」


「すげぇ、めっちゃ可愛いな。なぁ雲母きらら


「そうだな、凄く可愛いな」


多々上がる男子からの声には一切応えず、お辞儀をして一番後ろの空いている席に歩き始めると、出された足に引っ掛かって床に膝を着く。

「ぷっははっ、だーいじょぶイルザちゃん? ドイツと違って歩きにくくてごめんねー」


「あはははっ、やめなよ舞白ましろ、イルザちゃん足長いんだから舞白の短い足でもつまづくってー」


「はっ、お前ふざけんな、太ももは太いけど足は普通やしなー」


「ちょっとやめなさい」


「大丈夫です先生、どこも打っていませんから」


少し驚いたように目を開いた先生はそこで引き下がるが、舞白と呼ばれた女子生徒は未だに笑っている。

膝に手をついて立ち上がってスカートに付いた汚れを手で払い、用意された席の椅子を引いて座る。

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