女王様と執事様! ~女王様の耳はロバの耳~
アキラシンヤ
第1話 女王様の耳はロバの耳
僕が仕える若く美しい女王様、エリサ様。
下ろした長い髪は黄金の絹、大きな青い瞳は海の宝玉。肩を出した白いドレスなんて最高ですありがとうございました。
しかし、エリサ様にはロバの耳が生えていた。僕の目を盗んでエリサ様に呪いをかけるなんて許し難い、すぐにでも見つけ出し然るべき罰を与えよう――
と思っていたが、考えてみればエリサ様の秘密を僕だけが知ったのだ。要するに弱みを握ったともいえる。
せっかくの機会だ。然るべき罰はあとにして、エリサ様には僕の言いなりになってもらおうじゃないか!
そんな訳で謁見の間、玉座に座る女王様の隣です。
「何ニタニタ笑ってんだよ、気持ち悪ぃな。早く呪ったやつ探しに行けよ」
「失礼ですがエリサ様。その萌え萌えきゅんなお耳の秘密をバラされたくなければ何でも言う事聞く、聞きます、むしろ聞かせてくださいきゅるるんというお約束では?」
「何だよきゅるるんて! そこまでは言ってねえよ!」
「まあまあ。とにかく僕の言う事には素直に従ってもらいたい訳ですよ」
「……このゴミ虫うじ虫ダンゴ虫野郎が! 余に何をさせるつもりだ!?」
うーん語彙力。大体虫っていうね。バカかわいいところも素敵です。
「ふっふっふ。何、そう難しい事じゃありません。楽しいゲームにお付き合いいただこうかと」
「ゲームだと? どんなゲームだ言ってみろ」
「合コンど定番、女王様ゲームです。ルールは簡単、ここに割り箸が二本あります」
「何だよそれ。ワリバシって何だよ。初めて見たよ」
「……それはさておき。一本には赤い印を付けておりまして、それを引いた方が女王様。女王様は何でも命令できるというゲームです」
「いやいや! 余、女王だから! いつも通りだから! あとそれ二人でやって楽しいかなぁ!?」
今日もエリサ様はご機嫌よろしいようで何より。
「私は執事ですから? 赤い印の付いた箸を取れば私が女王様という寸法です。女王様として女王様には何でも言う事を聞いていただきます」
「紛らわしいなおい!! あとそのゲームしなくても何でも言う事聞く前提だったよね!? いる? このゲームのくだりいるかなぁ!?」
「今日も冴え渡るツッコミ、光栄でございます。ではどうぞ、箸をお選びください」
「いいけど!? 状況変わんねえしいいけど!?」
僕の手からエリサ様が取った割り箸には赤い印が付いていた。つまり女王様が女王様だ。
「余、女王!」
「存じ上げております」
「余、このゲームなくても国民全員に命令できるから! クチバシ? クチナシ? こんなの引いても同じだから!」
「クチバシとクチナシはまったくの別物でございますしそれは割り箸でございます」
「うるせえよ! 二人なら割り箸いらなくない!? じゃんけんでいいだろ!?」
「失礼ながらエリサ様! それはサッカーなんかしなくてもどうせ勝つか負けるか同点なんだからじゃんけんでよくない? と言っているのと同じです!」
「だからどうしたんだよ! ああもうこのゲーム楽しくねえなぁ!!」
ご不満なエリサ様もお美しい。もう、欲しがり屋さんなんだから。
しかし命令してくれそうにないのでエリサ様から割り箸を回収、改めてテイクツー。
「それではもう一度、割り箸をお取りください」
「要らねえなぁこの流れ!」
そう言いつつも取ってくれたエリサ様の割り箸には、印がついていなかった。
「どうやら私が女王様のようです。オーホッホッホ」
「何その笑い方、キモッ!」
「と言う訳で、エリサ様には何でも言う事を聞いてもらいます」
「……何だよ、何命令する気なんだよ」
「もう一度、女王様ゲームをやってもらいます」
「やだよ! それだけはやだよ!」
「ふむ。パスは一回だけですよ? それでは、とにかくどエロい事をやってください」
「曖昧――――――ッ!」
さすがはエリサ様、叫び声さえ美しい。
「具体性持たせていけよそこは! ゲームの醍醐味消し飛んでるじゃねえかよ!」
「それはもうどすこいエロい事を」
「どすこい!? お前私に角界エロスを求めてんのかよ!」
「すみませんが不勉強な私めに角界エロスについてご教授」
「知らねえよ! 沼が深すぎるだろ!」
「それでは具体的にどのようなエロスまでならオッケーなのでしょう」
「…………は? いっ、言える訳ねえだろそんなの!」
「女王様の命令はー、ぜったーい」
照れているエリサ様もお美しい。今何をお考えですか。どエロい事考えてませんか。
「…………ちゅ、ちゅー、……とか?」
「はいかわいい俺死んだ!」
完全に僕の負けです本当にありがとうございました!
照れ隠しなのか、エリサ様は立ち上がり僕の襟を掴んできた。
「何だよおかしいかよ!? つっても絶対お前とはしねえからな! 初めては好きな人と観覧車の中でって決めてんだよ!」
「もう十分ですエリサ様! 私を新たなステージに連れていくおつもりですか!?」
だめだ。このゲームはデスゲームだ。僕が人類初の萌え死した人間になってしまうかもしれない。
「このゲームは人類には早過ぎました。違うゲームを致しましょう」
「何だよ、まだやるのかよ。何やんだよ」
「伝言ゲームでございます」
「どんなゲームだそれ」
とりあえず説明は聞いてくださると。エリサ様の心は海より広いのかと。
「言葉で説明するのは難しいですから、一度試しにやってみましょう。まず、私が誰にも聞こえないようエリサ様に耳打ちを致します」
「誰もいねえけどなこの部屋。いいよ、何だよ」
「ふーっ」
「きゅるるんっ!? ふざけんなお前耳に息吹きかけんじゃねえよ!」
「えっ、きゅるるん!? 今きゅるるんと申しましたか!?」
「言ってねえよ絶対に言ってねえ!! いいからちゃんとやれよ!」
「分かりました、では改めて」
「おう、絶対息吹きかけんなよ。絶対だぞ」
「ふーっ」
「きゅるるんっ!?」
「やっぱり言ってるじゃないですかー!!」
何やだこの子超かわいい! 目に入れても痛くなさ過ぎて震える!
「てめえいい加減にしろよ!! 話が進まねえじゃねえかよ!」
「むしろ私はこの一瞬を永遠にしたく思います。我が人生に一片の悔いなし」
「やかましいわ! ちゃんとしろ、いいなちゃんとしろ分かってるだろうなおい!」
「分かりました、それでは。隣の柿はよく柿食う客だ」
「……………………そこは息吹きかけろよ!!」
「え、よろしいんですか?」
「よくねえけど!! 分かった、聞こえたよそれで!?」
「それを、今度は同じ内容を私に耳打ちしていただきます」
「おう、じゃあこっち来いよ」
顎で私に指図するエリサ様。このままちゅーしてくれませんかね。僕、天使の翼が生えると思います。そのまま召します悪しからず。
まあ、エリサ様はしてくださらないだろう。照れ屋さんだから。僕が耳を近付けると、エリサ様はわざわざ手で口元を覆って囁いてくれた。
「隣の客はよくききくうかくた」
「お見事でございます――――――!!」
はいパーフェクトフルコンボだドン!
さすがはエリサ様、狙ったところにホームランでございます!
「失礼ながらエリサ様! ここは天国でしょうか!!」
「いつもの王室だバーカ! 何が楽しいんだこのゲームもよ!」
「私は最の高に満喫致しました!!」
「お前はいつも楽しそうでいいなおい!!」
まったく、エリサ様は本当にかわいらしい。あまり楽しみ過ぎると死に至るヤバい。
これ以上は命に係わりますから、そろそろおしまいと致しましょう。
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