とある冬の空にさよなら

細雪きゅくろ

さよなら

こたつに入る。最強寒波が来てるらしい。なのに暖房はつけちゃいけないって親に言われてる。くそう。

「三角形ABCにおいて、角Aが60度の時……。」

べちょっとこたつに崩れ落ちる。数字が頭の中で踊っていてわけがわからない。数学は嫌いだ。

「にゃあああ……」

クズ思考が激しいから、冬休みの課題なんてやらないでいようと思ってた。なのに、課題を消化しなきゃお年玉をくれないなんて聞いてない。

こんなに寒いのに課題は多くて、気分が萎える。外を見るとちらちら雪が降っていた。

「んー……みかん……」

これで何個目のみかんだろう。皮を剥いて、置いていたスマホを開く。完全に勉強は惰性でやっていた。

「甘い、美味しい。」

愛媛のおばさんからのみかんは、よく陽にあたっていて甘い。みかんは太陽の光を甘く変換できるんだ。

「私もおひさまの力で甘くなれるのかな。いや、なれそう。なれるわこれ。」

こたつから出て、ベランダの窓を開ける。雪と風が吹き付けるが、私にはそんなの関係無くなっていた。

なんか飛べそう。このままおひさまの近くまで行って、私はあまーくなって帰ってくるんだ。カラダが甘いなんて最高じゃん。

ぼーっとした頭で後ろを振り返る。お母さんが呆然とした顔で私を見てきた。

「あんた、何してんの。」

「んー?甘くなってくる。」

そう言って、私はベランダから飛び出した。

ここは町で一番高いマンションの最上階だ。ここは一番空に近い。

さあ、甘くなろうっと。

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とある冬の空にさよなら 細雪きゅくろ @kyukuro_sasame

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