【ほっこり短編】関数型プログラマー、娘からプレゼントをもらう
@Re_minice
第1話
「ふう……」
コードのリファクタリングがキリのいいところまで済み、私はほっと息をついた。
プログラマーとして社会人のスタートを切り十五年、関数型言語をメインに据えるようになって五年。ようやく一人前の関数型プログラマーと名乗れるようになってきたのではないか、と思う。
職場は三年前にリモートワークが導入され、私がこうしてコーディング作業をしているのも自宅の仕事部屋だ。周りのペースや雰囲気を気にせず進められるのは性に合っていて気楽だが、時折寂しさも感じる。
と、そこで背後にあるドアが開く音がして、私は振り返った。
「パパ……お仕事終わった?」
「由紀か。終わったよ、遊びたいのかい?」
そこにいたのは愛しいひとり娘の由紀(ゆき)だった。今年小学校に入学したばかりだが、デジタルネイティブ世代とでも言えばいいのか、すでにすっかりPCを使いこなしている。「しょうらいは、パパみたいにぱそこんを使うおしごとがしたい!」が口癖で、最近は実際にScratchなども触りはじめたようだ。いちプログラマーとして嬉しいかぎりである。
由紀は後ろ手のまま、とてとてとこちらに歩いてきた。何かを隠し持っているのだろうか。
「あのね、パパにプレゼントがあるの」
「プレゼント! ……って、そうか、今日は誕生日だったっけ」
「もう、パパったらまたわすれてたの? きょねんもママにおこられたのに」
「はは、ごめんな」
そうだった。今日は私の39回目の誕生日だったのだ。あいにくこういうことには無頓着だが、娘に言われるまで気づかないとは。
「それで、はい、これ!」
「これは、チケット?」
「そう! うらを見て!」
「えーと、か……」
肩たたき券か。贈り物としてはベタだが、肩が凝る仕事だし、何より子供らしくてかわいらしい。
と、思ったのだが。
「か……『かたけんさ券』?」
「そう!」
由紀はふふんと胸を張った。
「パパの書いたコードを、ゆきが『かたけんさ』してあげるの!」
「由紀はすごいな。型検査なんてどこで覚えたんだい?」
「えへへー、ひみつ!」
おそらく、『肩たたき券』ではつまらないと思ってこんなものを作ったに違いない。由紀にはそういうところがある。
しかし、型検査か。
「OCamlでいいのかな?」
「ゆきは、『おーきゃむる』いがい、『かたけんさ』できません」
「ははは、そっかそっか」
私が仕事で使っているのはOCamlだ。このために勉強してくれたんだろうか。まったく、いじらしい。
「じゃあ、このコードをお願いしようかな」
そういって私はVimを立ち上げ、"Yuki.ml"と名を付けたファイルに次のようにタイプした。
"Thank you, Yuki" + 1;;
「さあ、型検査できる?」
由紀はコードを一目見て、むむむと唸る。
そしてすぐに表情がぱっと明るくなり、満面の笑みで私に告げた——
「Error: This expression has type string but an expression was expected type int」
「!?」
【ほっこり短編】関数型プログラマー、娘からプレゼントをもらう @Re_minice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます