第8話

 四階建ての病院の横には豪華なホテルが建っていた。

 海外からやって来る臓器移植希望者がホテルに泊まっているのだ。

 この国にやって来て三日も待てば臓器移植を受けられる。

 今やこの国は臓器移植先進国だ。

 巨大な商業として成り立っている。

 それほどにこの国では人が死にまくっている。


 病院の前の広場には赤十字の付いた緑のテントが立ち並んでいる。

 まるで戦場の様だ。


「ヘイ、ユー」

 加藤がテントの前をウロウロしている金髪の少女に声をかけた。


「ワッチュアネーーーム?」

 加藤が言った。


「シンディ」

 少女はおどおどとして答えた。


「ヘイ、シンディー、一人でこんな所を歩いてちゃいけないぜベイビー。ここは死の国さ。すぐに死んじゃうぜ。さあ、早くホテルにお帰りよ」

 加藤は英語でそう言った。

 加藤は英語が得意だ。

 ローリング・ストーンズという海外のバンドが好きで、そのバンドの曲を聞いているうちに英語を覚えたらしい。


「あの、私は病院を見たいのだけど。あの、ここで手術するから」

 シンディは言った。


「わかってる」

 加藤はうなずく。


「どうした?」

 マサカズが加藤に言った。


「病院が見たいって」

 加藤が言った。


「まあ、一人で外に居たら死んじゃうよ。それはあまり良くない。病院まで一緒に行くか」

 話を聞いていたキャップが言った。

 シンディはうなずいた。

 シンディは歩きながら加藤に話しかける。


「ねえ、あなたも人を殺すの?」


「いや、俺は人を殺したことがない」


「じゃあ、なんで拳銃なんて持ち歩いているのかしら?」


「はは、死なないようにさ。これが無ければ殺されるがままだ。いいかいシンディ、俺達は殺す事はしない。殺されるような事もしない。俺達は拳銃で安全を取引しているのさ。この国は俺達の命を保証してくれないからね。それどころか商品になっているだろう?はは、まあ、それは冗談」

 

 シンディはうつむいた。


 彼女も命を買いに来たのだから。


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